【脅迫状の謎】⑥



本件脅迫状を作成した真犯人は、当初の誘拐対象であった『少時』を特定していたことは明らかである。間違いなく身代金が取れるかどうか複数の候補者の中から選別・選定し、その結果『少時』が選ばれ、その後に詳細な下調べがなされたと見てよいだろう。この最終段階で計画の実行を決めた犯人は本件脅迫状を作成し、残るは実行のみという緊迫した状況にあったと思われる・・・。
ところが、である。この誘拐計画にどういった要素が影響をもたらしたのか判然としないのだが、突如としてこの件は狭山事件へとその舵を切りだしたのである。
『少時』の子供に対する誘拐計画は頓挫するも、その対象を中田善枝へと変更されたことにより、本件脅迫状は本来の持つ役割を十分果たしていくこととなる。
五月二日の夜十二時、現実に二人の犯人らしき男が佐野屋付近に現われていることから、誘拐対象を子供から女子高校生へと変更する上で生じた脅迫状の転用について、犯人らはその点につき深くは考えなかったと思われる。
『少時』の子供を狙っていた犯人がなぜ中田善枝と接触することになったのか、そして被害に遭うことになる中田善枝が五月一日午後、西武線のガード下で人待ち顔で立っていたのはなぜなのか、この二つをつなぐ接点は謎のままである。