アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1372 【第一審判決】⑧

                         狭山事件第一審判決】

                      四、弁護人等の主張に対する判断

(二)自白の信憑力について③

三、鞄類の発見経過について

   弁護人=中田直人は、被告人の鞄類、教科書類を埋めた点に関する自白は、あまりにも不合理、不自然な点が多く、それにも拘(かかわ)らず、捜査当局は、鞄類について絶大な確信をもって捜し出しているのは奇妙であるし、その他種々の状況を考えればゴム紐、鞄類、教科書類は、あらかじめこれらを処分するつもりで、別々の場所に、別々の証拠にするつもりで埋められたと考えるのが一番合理的であり、そしてそのことは、被告人の本件自白に対する真実性についての疑問をますます深めるものである旨主張するが、証人=清水利一、同=関源三の当公判廷における各供述(後者は第五回公判廷のもの)及び右清水利一作成の実況見分調書、被告人の司法警察員に対する六月二十一日付供述調書二通によれば、弁護人主張の鞄類(同押号の三〇乃至四〇)は、昭和三十八年六月二十一日被告人の自供するところに基づき、狭山市入間川字中向沢1⚫️79番地先の溝内から発見されたものであることが認められるし、また、教科書類を埋没する機会に取り出した筆入れの中にあった万年筆一本が被告人の自宅から発見されているのであるから、被告人が鞄類、教科書類を右溝内及び付近の溝内に埋没したとみて差し支えなく、そしてその際の状況の細部において記憶が不正確、不明瞭な点が存することも事実であるが、右埋没行為は、「四本杉」での強盗強姦、強盗殺人の犯行の後、中田栄作方へ脅迫状を届けに行く過程におけるもので、自ら供述する如く精神的に興奮しており、しかも薄暗い中で急いで為されたことであるから、その間の記憶自体が多少不正確となり、或いは事実の一部を見落とすことも考えられ、これを理由に被告人自身が、右教科書類、鞄類を溝内に埋没したことまでも否定することはできない。

   以上検討したところで明らかなように、前記各物証の発見経過は、被告人の本件自白の真実性を担保するものでこそあれ、決してこれを疑わしめるものでなく、前記各物証の発見経過を理由として、本件自白の真実性を争う前記弁護人等の主張は、当裁判所の採用しないところである。

   なお自白の信憑力に関する弁護人等爾余(注:1)の主張は、逐一検討するもほとんど独自の見解に基づくものであって、前記認定に影響し、ましてこれを根底からくつがえすに足るものはなく、その失当(注:2)であること前掲各証拠に照らし明らかと認められるから、すべて採用のかぎりでない。

◯注:1「爾余(じよ)」=それのほか。それ以外。そのほか。

◯注:2「失当(しっとう)」=当を得ていないこと。道理に合わないこと。

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(三)その他の主張について

一、弁護人=橋本紀徳は、判示第四の(四)の事実は、被告人と被害者=高橋良平が友人の間柄であること及び被告人が作業衣を持ち出した事情等から考えて、また判示第八の事実は、民事上の債務不履行として処理されるべき性質のものであるから、いずれも実質的違法性を欠き、犯罪が成立しない旨主張するが、前者については、この点に関する高橋良平の検察官に対する供述調書の記載によれば、被告人は、夜間鍵をかけて右良平の管理していた自動車の運転台の三角窓から手を入れてドアを開け、自動車の中に入り、同人に無断で同所に置いてあった判示の作業衣を取ったものであることが認められるから、これをもって違法性を欠くものとは成し難く、窃盗罪を構成することは明らかというべく、次に後者については、大野稔、斎藤貞功の司法警察員に対する各供述調書の記載、この点に関する被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書の記載並びに被告人の当公判廷の供述を総合すれば、判示軽自動二輪車は月賦で買受け代金の完済を受けるまではその所有権が完全に売主に留保されており、被告人においてもそのことを知悉(注:3)していながら右月賦金完済前にこれを判示石川寅夫に擅(注:4)に売却したものであることが認められるから、これをもって弁護人主張の如く単なる民事上の債務不履行であるとして違法性を欠くものとは成し難く、横領罪を構成すること疑のないところである。叙上(注:5)の次第により前記弁護人の主張も採用できない。

 

二、次に弁護人三名は、被告人の精神もしくは性格に異常があるかの如き主張をしているが、被告人の当公判廷における供述態度は正常であり、犯行時の行動が計画的に順序立てて行なわれていること、生い立ち、経歴において、特段異常な性行のあったことも、血統上遺伝的負因の存することも何ら認められないこと等に徴すれば(幼少時被告人に数回夢遊病的行動があったこと、無口であること、他人同席として食事をすることを好まない等の事実が認められないこともないが、右夢遊病者的行動は極めて一時的のことであり、その後においては別に異状がないこと、他の点の如きは、多少その傾向があるという程度のものであって、それが精神もしくは性格の異状によるものとは認められない)、被告人の刑事責任に影響を及ぼす程度の精神もしくは性格の異状があるものは認められない。よって弁護人の右主張も採用されない。

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注:3「知悉(ちしつ)」=知りつくすこと。細かい点まで知っていること。

注:4「擅(せん)」=ほしいままにする。思い通りにする。

注:5「叙上(じょじょう)」=前に述べた事柄、上記。