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【狭山事件第二審・判決 】
(玉石・棒切れ・ビニール片・丸京青果の荷札・残土・財布・三つ折財布・筆入れについて)
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(1)玉石について。
所論は、五・四員大野喜平作成の実況見分調書をみると、死体と共に「死体の右側頭部に接して人頭大の玉石一個を発見し」と記載されているが、被告人はこの玉石に触れた供述をしていない、そして、死体発見現場の土質からみてもそのような玉石が自然にそこに存在したとは考えられないので、おそらく犯人が被害者の死体を埋没する際に他所から持って来たものと考えられる、また、地中にあったとしても犯人ならば必ず玉石があったことを記憶していてこれについて説明するはずである、玉石について全く供述していないのは、被告人が死体を遺棄した犯人でないからであって、死体遺棄に関する被告人の自白は信用することができないというのである。
そこで、当審に至って提出された玉石(昭和四一年押第二〇号の6)をみると、これは土木建築の基礎工事に使われる程度の何の変哲もない、やや丸みのある児童の頭くらいの大きさで、重量約六・五瓩(キログラム)のものであるが、土が付着している状態を観察してみても、また、所論指摘の関係証拠によってみても、この石塊が以前から土中にあったものか、それとも茶株の根元辺りにあったものが、死体を埋めるために農道を掘り起こして埋め戻す際転がり込んだものか、何とも判然しない。
しかし、被告人が死体を埋没するため現場で土を掘ったのは、暗闇の中のことであり、懸命に急いで作業をしたと推認されるから、作業に夢中のあまり、石塊の存在に気付かなかったか、気付いても記憶に残らないということもあり得るから、被告人が捜査段階でこの石塊のことに触れた供述をしていないからといって、被告人が犯人でないとは言えない。右の石塊が周辺地域の墓制からみて、墓石(拝み石)ではないかとの所論は、何しろ埋没した場所は人が踏み付けて通る農道であるだけに到底賛同することができない。
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(芋穴の中にあった棒)

(埋め墓を守る「ハジキ」の習俗)
(2)棒切れについて。
所論は、芋穴の中からビニール風呂敷と共に棍棒が発見されているが、この棍棒は犯行に関連があると思われるのに、被告人は自白中でこの棍棒について何も語らない。もし被告人が犯人であれば、前述の玉石と同様に、この棍棒の出所や使途などについて説明できるはずである、ところで被告人は当審(第二七・二八回)で、取調官に棍棒の実物を見せられて「死体を二人がかりでこの棒で担いできたのではないか」と聞かれたが、知らないと答えたと述べており、これによれば、取調官は棍棒が事件に関係がないと判断して強いて調書に記載しなかったのではなかろうか、犯行現場に客観的に実在したことの明白な物証であっても、捜査官の関心をひかず、又は見落としたことや想定することができないことは、被告人の自白には一切登場しないのである、このことは自白が捜査官の描く構想どおりに不当に誘導されたものであることを示している、更に、当審で取調べた和歌森太郎及び上田正昭作成の鑑定書によれば、この棍棒は、周辺地区に伝承されている墓制からみて、埋め墓を守る目的で使用されるいわゆるハジキの習俗の変形ではないかと考えられ、犯人はこの墓制上の習俗を熟知していたことが推認でき、この習俗を知らない被告人は犯人ではなく、本件は被害者と面識のある複数犯人による謀殺事件の疑いがあるというのである。
まず、当審で取調べた棍棒(昭和四一年押第二〇号の5)をみると、棍棒と言えるような太さや長さはないし、その両端は、所論がいうような刃物で切ったような切口ではなく、手で折ったような断面を呈し、折った際に裂けたような痕跡もあり、材質は脆くて折れやすく無花果(イチジク)ではないかと思われる。外観からみても、この棒切れが、和歌森・上田鑑定にいう「ハジキ」の代用にしたのではないかなどと考えること自体無理だと言わざるを得ない。
ところで、証人=高橋乙彦は原審(第四回)において、山狩りに携わった消防団員や機動隊員らが、遺留品や証拠物を捜索するために藪などを払いのけたり、杖代わりに山の木を折って持ち歩いたと証言しており、また、証人=長谷部梅吉は当審(第九回)において、「捜索隊の者が山を歩くのに杖代わりに持って歩き、そこへ投げ捨てたのではないかと思った、その棒が死体を運ぶだけの重量に堪えるものでないという記憶があるので、おそらく捜査員もその棒で運んだということは頭になかったのではないかと思います」と供述しており、これによれば、死体発見前に山狩りの捜索隊員がこの棒を芋穴の中に捨てたのではないかとも考えられる。
また、本件以前に、本件とは何の関係もない何びとかが右の棒切れを芋穴へ投げ込んだという推測も十分可能である。
そうだとすれば、犯人がこれを何らかの目的で使用し、ビニール風呂敷と共に芋穴の中に投げ捨てたとは、にわかに断定できず、したがって被告人が犯人ではないからこの棒の出所や使用状況について説明ができなかったとみるのは相当でない。
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◯老生が従事している仕事は、輸入された海上コンテナ内から貨物を積み降ろすという作業である。平均的な重量は25キロだが、中には38キロにも及ぶ重量物も稀にあり、近々還暦を迎える身としてはいささかその辛さが身にしみ、悲しい気持ちに包まれたりする。週五日間もこれを繰り返すと、何やら人生の絶望の淵に立たされた感に満ちたりするが、その代償として受取った賃金により好きな芋焼酎が飲め、やはり好みの趣味である狭山事件に触れることが出来、なんとか人生の均衡を保っている次第である。そして、よりこの均衡を保つことを補強するため、本日は所沢で開催されている『彩の国 所沢古本まつり』へ出向き、ついでにチャンピオンズカップの前日投票馬券などを買いに出かけるとする・・・。