アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1309 【判決】⑧

   ◯裁判記録、殊にその判決文ともなると一回読んだだけではまず理解出来ず、最低として三回ほど読み直すことでやっと概略を把握でき、その細部を理解するためには更に数回に及ぶ読み直しを迫られることとなり、言ってみれば世にも珍しい奇書と言えよう。したがって今俺は珍しい書物と出会っており、滅多にない読書経験をしているのだぞと、そうポジティブに考え判決文を読み続けたい。       

                   【狭山事件第二審・判決⑧】

(いわゆる別件逮捕・勾留・再逮捕・勾留を含む捜査手続の違法・違憲を主張し、よって捜査段階における被告人の供述調書の証拠能力を否定し、自白の任意性を争い、原判決の審理不尽その他訴訟手続の法令違反を主張する点について)

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   先に述べたように逮捕・勾留は原則として事件ごとになされるべきであるから、例えば「別件」と「本件」とについて同時捜査が可能であって、一個の逮捕ないし勾留の被疑事実に含ませることができるにも関わらず、専ら逮捕・勾留の期間の制限を潜脱(注:1)するため罪名を小出しにして逮捕・勾留を繰り返すとか、「別件」による身柄拘束中に「本件」により既に逮捕状を得ていながら逮捕を殊更に遅らせ、別件の釈放を待って「本件」の逮捕に踏み切るなど逮捕権が著しく濫用されていると認められる場合、及び「別件」の勾留中に捜査の重点が専ら「本件」に向けられ、「本件」の被疑事実が当初から逮捕・勾留の基礎に掲げられていたのと実質的に差異がないような場合等、特殊の例外を除いては、既に身柄を拘束されている同一被疑者(被告人)について、これと併合罪の関係にある余罪により再度逮捕・勾留することは許されるとしなければならない。

   かように考えてくると、問題はむしろ、端的に「本件」について罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由と逮捕ないしは勾留の必要性とがあるかどうかという点に絞られてくるわけである。そこでこの点を証拠について具体的に検討すると、「別件」による逮捕・勾留中にも、「本件」について相当多くの有力な証拠を収集したことは右に見てきたところであるが、これに加えて前記地下足袋一足を含め被告人方から押収した地下足袋計五足はいずれも被告人の兄六造の所有にかかるものであるが、被告人もこれらの地下足袋を兄から借り受けて履いたことがある旨を取調べの際自認したこと、内田幸吉に面通しをさせた結果、容貌・身長等から五月一日午後七時過ぎころ内田方で同人に中田栄作方の所在を尋ねた犯人と思われる男は被告人であると認められること、加えて、これは当審に至って捜査の経過を明らかにする趣旨のもとに取調べられたもので、しかも供述者である被告人の署名・押印を欠く供述調書ではあるが(なお、被告人は弁護人と接見した際、弁護人から供述調書に署名・押印を拒むことができることを教えられた事実がある)、被告人が六月十一日検察官河本仁之に対し、「本件」の各犯行を被告人がほか二名の者と共謀して犯したことを窺わせる供述をした調書があること、これも署名・押印を拒んだのであるが、その翌十二日、員清水利一に対して、脅迫状の筆跡は自分の筆跡であることを自認する趣旨の供述をした調書があることがそれぞれ認められる。

   とは言え、捜査官としては事実の重大性と証拠関係がが複雑に入り組んでいること等の事情から、ひとまず問題のない窃盗・暴行・森林窃盗・傷害・横領被告事件について延長された勾留期間の最終日である六月十三日に公訴を提起した後、「本件」及び「別件」中の恐喝未遂被疑事件については収集済みの証拠を整理するとともに、念のため更に煙草吸殻一個と唾液若干とを資料として、科学警察研究所警察技官渡辺孚に鑑定をさせた結果、六月十四日付の鑑定書で被告人の血液型がやはりB型と出たことをも合わせて検討した結果、六月十六日「本件」についても裁判官に逮捕状を請求し、司法審査を経た上これを得て、その翌十七日午後三時十五分右逮捕状によって被告人を逮捕し同月二十日、同様の被疑事実によって勾留をし、更に捜査を進めた後七月九日、強盗殺人・強盗強姦・死体遺棄・恐喝未遂被告事件として訴因を構成し公訴を提起したものであると判断される(判例によれば、強盗強姦罪と強盗殺人罪とは観念的競合で、これと死体遺棄罪及び恐喝未遂罪とは併合罪の関係にあることは言うまでもない)。

(続く)

 

注:1「潜脱(せんだつ)」=法令や規則によって禁じられている方法以外で、それらの規制を免れることを意味する。法令に違反しているように見えないながらも、その法の趣旨や目的を回避する行為を指し、一般的に「法の網をくぐる」と表現されるような状況がこれに当たる。

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   引用中の、東京高等裁判所における第二審の判決が語られている頃には、第一審から尽力をつくしてきた中田直人弁護人やその同僚たちが被告人及び部落解放同盟側から解任されている。いわゆる共産党系弁護人から解放同盟系弁護人への転換であるが、大人の事情でお互いが仲良くできない理由がそこにはあるのだろうな。

   ところで狭山事件の被告となった石川一雄氏の罪名は確か、「強盗強姦・強盗殺人・死体遺棄・恐喝未遂・森林窃盗・傷害・暴行・横領」であるから、弁護側は対象をこれらに絞り、その捜査過程の欺瞞を暴き石川被告の無罪判決へと導く活動をするものと考えていたが、これに差別問題を追加し、いつの頃からか「狭山差別裁判」と呼ばれるようになっていた。議論すべき対象が一挙に拡がってしまった感がありやしないだろうか・・・。

   このところの天気は曇りか雨ばかりだ。ちょっと前に撮った写真でも眺め、気分を変えてみたい。

古本と安ワイン、そして晴れた空。素晴らしい。