アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1308【判決】⑦

                     【狭山事件第二審・判決⑦】

(いわゆる別件逮捕・勾留・再逮捕・勾留を含む捜査手続の違法・違憲を主張し、よって捜査段階における被告人の供述調書の証拠能力を否定し、自白の任意性を争い、原判決の審理不尽その他訴訟手続の法令違反を主張する点について)

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   以上の次第で、事件発生以来行なわれてきた捜査は強盗強姦殺人・死体遺棄・恐喝未遂という一連の被疑事実についての総合的な捜査であると認められ、いわゆる「別件」逮捕の時点においても、捜査官が被告人に強盗強姦殺人・死体遺棄の嫌疑を抱いていたことは否定することができない。このことは、当審で取調べた五月二十三日付と同月二十九日付の被告人のポリグラフ検査の承諾書に「私はただいま云われましたような女の人を殺したことなどは知りませんから本日ポリグラフ検査(ウソ発見器)をすることを承諾致します」とか「私は中田善枝さんの事件で疑われて今警察におりますが私はこの事件には本当に関係がありませんからポリグラフ(ウソ発見器)にかけてもらってけっこうです」とかいう記載があること及び六・六県警本部刑事部鑑識課警部補=森裕造作成の「ポリグラフ検査結果の確認について」と題する書面に徴しても明らかである。

   元来、ある被疑事実について逮捕・勾留中の被疑者を、当該逮捕・勾留の基礎となった被疑事実以外の事実について取調べることは、法が被疑者の身柄拘束について各事件ごとの司決審査(注:1)を要求する建前をとっていること(いわゆる事件単位の原則)を考慮しても、それが一般的に禁止されているわけではなく、また、取調べようとする事実ごとに新たに裁判官の許可を得なければ取調べをすることができないものでもなく、逮捕・勾留の基礎となった被疑事実について逮捕・勾留の理由と必要とが存在する限り、右事実について取調べるとともに、これに付随して他の事実について取調べても、右の取調べが令状主義に反するものということはできない。殊(こと)に本事件のように、後者と前者とが社会的事実として一連の密接な関連があり、後者の発展ないしは、成り行きとして前者が往々にして生起すると考えられるような場合には、前者について逮捕・勾留の理由と必要とが存在する限り、後者について取調べたからといって別段違法な取調べであるとは解されない。

   これを本事件に即して具体的にいうと、筆跡鑑定の結果脅迫状の筆跡が被告人のそれと類似もしくは同一であると認められた以上、右脅迫状がいつどこでどのようにして作成されたかについて取調べるのは当然であり、しかもその文面たるや後記のように中田栄作方に到達した当時、中田善枝が殺害の危険にさらされていることが明らかなものであり、現実にも同女が死体となって発見され、解剖の結果同女の膣内精液から検出された血液型がB型で被告人のそれと符合したとあってみれば、「別件」の取調べに際しても中田善枝に対する「本件」との関連性を調べる必要があるのは明らかである。「別件」と「本件」とは、中田善枝が行方不明となった時期、死体解剖の結果判明した死後の経過時間などから、その発生時期もほぼ対応することが推認される状況であったことからすれば、事件当時の被告人の行動状況を取調べることは、一面においてそれが「別件」の捜査であると同時に、他面において必然的に「本件」の捜査ともなると解される。

   「別件」の逮捕・勾留中に作成された被告人の供述調書には、事件発生の当日である五月一日、二日及びその前後にまたがる被告人の行動状況につき、再三にわたって取調べが行なわれたことが窺われるが、それは専(もっぱ)ら「本件」のためにする取調べというべきではなく、「別件」についても当然しなければならない取調べをしたものに他ならない。そして「別件」すなわち恐喝未遂等被疑事件と「本件」すなわち強盗強姦殺人・死体遺棄被疑事件とは社会的事実としては一連の密接な関連があり、「本件」の発展ないし成り行きとして「別件」が後発すると通常考えられる関係にあるとは言え、法律上は両者は併合罪の関係にあり、互いに余罪の関係にあることは言うまでもない。

(続く)

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注:1 ◯原文には「司決審査」と記載されているが、いくら調べてもこのような用語は見つからず、その過程で「司法審査」という用語が浮かんできた。

(写真は原文)

なお「司法審査」とは、分かりやすく言えば、具体的な事件について、法律を使って解決する行為である。