アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1298

狭山事件公判調書第二審4394丁〜】 

                        第七十五回公判調書(供述)

                                                                被告人=石川一雄

                                            *

井口裁判官=「刑法総論って、誰が書いた本なんですか」

被告人=「誰が書いたのか、もう四年くらい経ってるんですけどね。拘置所で借りたですね、いっぱいそういうのがあるんです」

井口裁判官=「そういうのを読んでいて、各論も読んだんですか」

被告人=「ええ。弁護士のそういうあれがあるんですね、それから罪名がどういうことで、どういう風になるとか、それから無罪になればどういう補償があるとか、そういうことが出てるんですね」

井口裁判官=「刑事訴訟法

被告人=「ええ、刑事訴訟法。それから、矯正保護という本も読んだですね」

井口裁判官=「それから先ほど、字が読めるか読めないかという問題があったね。三十八年当時あなたのうちにはテレビはもう入っていたの」

被告人=「入ってました。三十三年から入っていたです」

井口裁判官=「どういう番組を見てたんですか」

被告人=「ちゃんばらですね、ほとんどが」

井口裁判官=「何か覚えている?当時の番組で」

被告人=「当時の番組で特に覚えてるのは、ライフルマンですね、火曜日だったかな。それからアンタッチャブル、それからハイウェイパトロール、それからララミー牧場、そういうのがあったですね」

井口裁判官=「それで記録を見ると、あなたはその番組を新聞で見たようなことを言っているが、それはどうですか」

被告人=「いや、新聞は分かんないじゃないですか。だってそれは見るんだったら裁判官なら調書をみれば一番よく分かるんじゃないんですか、自分がどういう意味のことを述べているかということを」

井口裁判官=「だけどあなたは平仮名が読めたんですか」

被告人=「読めました」

井口裁判官=「平仮名はその当時書けたんですか」

被告人=「ええ、書けました」

井口裁判官=「それで先ほどの長島の問答だけども、あれはしょっちゅう画面に字が出るから"長島"という字なんかを覚えちゃったということですか」

被告人=「画面に出るからですね、だから分かったです」

井口裁判官=「長島の文字は覚えた」

被告人=「覚えましたね」

井口裁判官=「王なんていうのは分かるんですか」

被告人=「書けないけれども見れば分かりますね。字を合わせれば分かるからね」

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裁判長=「野球を始めた」

被告人=「はい」

裁判長=「キャッチャーが得意だったようですね」

被告人=「ええ、そうですね」

裁判長=「投球は右手でやるの、左手でやるの」

被告人=「ほとんど右でやったですね。左でもある程度投げられますけどね、だいたい右のほうが強いけど、まあ左でも五十メートルはきますからね」

裁判長=「旋盤か何かをやっておって、右の人差し指を怪我したり、親指を潰したりしたようなことがあった」

被告人=「ありました」

裁判長=「それは投球には差し支えなかった」

被告人=「その場合は左でやったこともありました」

裁判長=「その怪我をした当時は」

被告人=「今度はあべこべに、グローブが二つあるんです、左と右と。自分ちにもありますけどね、それは」

裁判長=「怪我をした当時は左で投げておった」

被告人=「ええ、投げておりました」

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松本弁護人=「今、平仮名が当時読めたと言いましたね」

被告人=「はい」

松本弁護人=「あなたが逮捕されてから書いた図面に、平仮名書きでいろんな説明をしていますけれども、その中に、例えば"え"という字ね、これは平仮名で書いた字はほとんど見当たらないので、片仮名の"エ"という字しか見当たらないんだけれども、平仮名は必ずしも全部書けたわけじゃないですか」

被告人=「ええ、勿論そうですね」

松本弁護人=「書けたというのは平仮名しか書けなかったという意味で言ったんじゃないですか」

被告人=「そうですね」

松本弁護人=「あなたが書いてあるのを調べてみると漢字らしい漢字はほとんどないんですね」

被告人=「ほとんど何もないんじゃないんですか、調書には」

松本弁護人=「ほとんど漢字は書いてないでしょう」

被告人=「はい」

松本弁護人=「それから、先ほど住所を書けるということを言いましたが、住所も漢字で書けたのは全部書けたわけじゃないでしょう」

被告人=「自分ちの住所は全部書けますね。"菅原"は書けなかったです。"菅原"だけは難しい字だったから、これは抜かしちゃって、四丁目としたです」

松本弁護人=「入間川という字は書けてますね」

被告人=「ええ」

松本弁護人=「あなたは石川カズオという字は、"一雄"ですね」

被告人=「ええ、これも難しいから書けなかったです」

松本弁護人=「あなたはどういう字を書いたんですか」

被告人=「"夫" です」

松本弁護人=「それはいつまで"夫" という字を書いたんですか」

被告人=「逮捕されても、そう書いたですね。起訴されるまで」

松本弁護人=「第一審公判が始まったのがその年の九月ですね」

被告人=「はい」

松本弁護人=「その年の九月頃はどうだったんですか」

被告人=「やはり"夫"と書いていたと思いますね」

松本弁護人=「だから、いつから正しい"雄"を書けるようになりましたか」

被告人=「起訴されてからじゃないですか、起訴されてからと思いましたね。拘置所は字が一字違っても出ないんですね。だからそういうことを書かなくちゃだめだと教えられたと思います、確か」

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昭和四十九年六月十二日       東京高等裁判所第四刑事部

裁判所速記官  佐藤治子 印

                         沢田伶子 印

                         重信義子 印

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◯本速記録末尾(4397丁)添付の石川被告作成の図面。

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   今回をもって狭山事件公判調書第二審の引用を終える。