◯事件発生後、行方不明の被害者の捜索にあたり、狭山市内およびその周辺へは大規模な山狩りが実施されたが、本件スコップはその捜索後に、遺体発見現場付近の麦畑から見つかっている。被害者の遺体が農道に埋められていたという状況から、捜査当局は発見されたスコップが犯行に使用されたものと見てこのスコップの出所を捜した。結果、驚くべき早さでこのスコップは石田養豚場から盗まれたものと断定、養豚場の経営者に、発見されたスコップを確認させる前に紛失届を提出させるという行動に出ている。これは捜査手順として適正であろうか・・・。




【狭山事件公判調書第二審4325丁〜】
第七十五回公判調書
裁判長=「弁護人の、昭和四十九年五月二十一日付=事実取調請求書中二、提出命令(2)の昭和三十八年五月四日司法警察員=大野喜平の実況見分の状況を撮影したネガフィルム一巻については、捜査の過程を明らかにするという立証趣旨で検察官から取調べを請求されますか。
同事実取調請求書中二、提出命令(3)の昭和三十八年五月十一日司法警察員=福島英次の実況見分の状況を撮影したネガフィルム一巻についても同様でしょうか」
大槻検事=「この(3)のネガフィルムは検察官が弁護人に開示したものの中に入っていましたか」
橋本弁護人=「福島英次の実況見分の状況を撮影したネガフィルムかどうかは分かりませんが、開示を受けたネガフィルムの中にスコップが写っているものがあったので、私の方では多分、福島英次の実況見分の状況を撮影したネガフィルムではなかろうかと考えたのですが、正確には、福島英次の実況見分の状況を撮影したネガフィルムの開示を受けたことはありませんと思います」
大槻検事=「これは不意打ち的な請求であって、これについては、検察官は全くこの法廷へ顕出する用意すら出来ておりません」
主任弁護人=「何の彼の(注:1)と言いましても、開示されたネガフィルムを全部お調べ願えれば私どもの方はいいのでありまして、特定の仕方に誤りがあったかも知れませんが、ただ今橋本弁護人が述べたとおり、スコップの写っているネガフィルムという趣旨です」
大槻検事=「橋本・福地両弁護人がご覧になったものを特定するについて、訴訟技術上非常に問題があるわけです。単純にネガと言われますが、これだけ沢山あるわけです。これはベタ焼きですが、この中のどれかということを全然特定出来ないわけです。こういう漠然とした請求ではね」
主任弁護人=「スコップが写っているネガフィルム何枚ということで特定出来ませんか」
大槻検事=「出来るか出来ないかご覧願います、写真のどれとどのフィルムが合うのかということを明らかにするために検察事務官にこういう書面を作らせたのです。これは検察官の本日付証拠調請求書の番号6の書面です。これと写真と領置調書を突き合わせれば、これがこれであるということが分かる仕組みになっているのです」
主任弁護人=「かなりな枚数の写真ですし、その一枚一枚についてどのような意味を持っているのかについて、私どもは正確に知っているわけではありませんので、検察官から開示して頂いたネガ全部についてお調べ願いたいというのが私どもの趣旨です。本日整理することが出来ませんので、開示して頂いたネガは、どちらから請求するのかは別として、裁判所にはお取調べ願うということを前提として整理のうえ改めて請求してはどうかと思います」
大槻検事=「訴訟技術的には全部一括してということの方が一番簡単でいいと思います。それならここにあるもの全部ということで、それに検察事務官の報告書もあるので、それと対比して頂ければ分かります。ただ、調書に添付されていないものもありますが、これは同じような写真で、必要がないということで使わなかっただけだと思われるものもあります。それも出してもらいたいというのであれば、提出を考慮してもいいですよ」
主任弁護人=「その方がいいと思いますから、検察官の方ですべての写真を出して頂き、それに関する差押調書なりを私どもの方で同意することにしたいと思います」
大槻検事=「そうなりますと、弁護人の証拠申請をそのままにしておくのは相当でないと思います」
主任弁護人=「弁護人側は、提出命令の申立てを撤回します」
大槻検事=「そうしますと、検察官はネガフィルムの関係については、
(一)本日付証拠調請求書の番号4ないし8のほかに、
(二)昭和四十九年五月九日付=新木緑朗の任意提出書。これはフィルム写真原板(黒白)四四駒、ただし三五粍(注:2)三六駒、大名刺判八駒を任意提出するという書面です。
(三)昭和四十九年五月九日付=小職の領置調書。これは右任意提出にかかるフィルムを領置した調書です。このフィルムの押収番号は、東京高検昭和四一年領第一七号の符号18です。ちなみに、本日付証拠調請求書の番号5の領置調書により領置したフィルムの押収番号は、東京高検昭和四一年領第一七号の符号17で、これにはさらに枝番がついております。その内訳は、
(1)本日付証拠調請求書の番号7および8のフィルム写真原板
(2)昭和三十八年五月四日付・司法警察員=大野喜平作成の実況見分調書末尾添付写真のネガフィルム
(3)五十嵐勝爾作成の鑑定書に添付の写真のネガフィルム
(4)および右(1)ないし(3)のネガフィルムと同じ機会に写したと思われるネガフィルム若干です。
以上の書面および証拠物を、フィルムの存在を明らかにするためという立証趣旨で取調べを請求したいと思いますが、弁護人の方はそれでいいですか」
主任弁護人=「結構です」
大槻検事=「それでは、そのように申請します」(続く)
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注:1「何の彼の(なんのかんの)」=ああだのこうだの。あれやこれや。
注:2「粍」=ミリメートル。