
【狭山事件公判調書第二審4315丁〜】
第七十五回公判調書
裁判長=「最初に、前回までの証拠調請求が残っていますのでそれについて決定したいと思います。前回弁護人の希望で決定を留保しました北原証人について、本日決定したいと思いますが如何でしょうか」
主任弁護人=「結構です」
裁判長=「それでは決定します。前回の木村証人ほか一名に対する証拠決定と同趣旨で、北原証人も取調べないことと致します。
次に、前回証拠決定のため弁護人に提示を求めていた小川とらの録音テープが、その後弁護人から出されて、その飜訳文と対照しながら裁判官一同で聞いてみました。公判準備調書よりはずっと感じが良く出ていると思います。しかしながら聴取する前は、前回も申しましたように記憶喪失ということで、刑事訴訟法第三二一条一項三号の条件を充(みた)すのではないかと想像していたわけですが、聞いてみると、特に二年三ヶ月の間に記憶喪失があったとは考えられません。従って、刑事訴訟法第三二一条一項三号の書面として採用するには無理があると考えられます。また同法第三二八条の供述の証明力を争うための証拠という要件、これについては色々な考え方がありますが、当裁判所としては自己矛盾の供述に限ると考えますが、これについては弁護人の請求されたものについての自己矛盾と果たして言えるかどうかについて多少難点がある。
あの録音については、裁判所が場を外して、検察官・弁護人および書記官立会いの上で聴取した経過からして、検察官の同意が得られるならば、裁判所としてはむしろ公判準備調書よりもよく感じが出ているので、採用しても構わないと思いますが、その点検察官は、前回筋道を立てた異議の意見が述べられておりますが、如何でしょうか」
大槻検事=「証拠とすることに同意します」
裁判長=「それでは、同意があったものとして採用して取調べます。
ついては、録音の飜訳にミスプリントがありますので、気付いたところだけを指摘します。あくまでも録音テープそのものが証拠ですが、気付いた点としては(1)訳文五枚目裏八行目の、
「あのころは、ほんとに、わたしも、長く続いているようじゃなかったんですからね。・・・」とある「長く続いて」の次に「まだ」と入るようです。
(2)十一枚目裏八行目の、
「・・・それじゃあ、あのー、決行ってうちへ行って・・・」とある「決」は「沢」の間違いではないかと思います。
(3)十二枚目裏三行目に、
「・・・そしたら、決いったってしょうがないから・・・」とある「決」も「沢」の間違いであろうと思います。
(4)十三枚目表七行目に、
「・・・おら、決へ行ってくらぁ・・・」とある「決」も同様に「沢」の間違いであろうと思います。
(5)同じく十三枚目表末行に、
「・・・朝起きると狭いから、狭くってしょうがねえからね・・・」とあるのは「朝起きると寒いから、寒くってしょうがねえからね・・・」の誤りではないかと思います。
次に、昭和三十八年五月四日付=関口邦造作成の実況見分調書添付写真のネガフィルムを検察官は提出されますか。検察官の昭和四十九年五月二十三日付=証拠調請求書の番号7がそれに当るのでしょうか」
大槻検事=「そのとおりです」
裁判長=「それでは、そのネガフィルムを本日採用して取調べます。
それから弁護人請求の、狭山警察署および川越警察署に対する公務所照会について、両署から留置人名簿、留置人出入簿、留置人接見簿等の関係帳簿書類はすでに廃棄して、現存しない旨の回答がありました。
次に新たな証拠調請求の分に入ります。
弁護人の、昭和四十九年五月二十日付=事実取調請求書の提出命令一の(1)から(6)までについては、検察官から、同年五月二十一日付の意見書をもって提出命令の対象にならないという意見が提出され、弁護人から改めて五月二十一日付で、書証として(1)から(6)までの取調請求があり、その立証趣旨は、(取調べを求める理由)の項のとおりであって、検察官は、立証趣旨は違うが、証拠とすることに同意するということですので、採用して取調べます。
次に弁護人の、昭和四十九年五月二十日付=事実取調請求書の提出命令一の(7)および同年同月二十一日付の事実取調請求書の二、提出命令の(1)のネガフィルムについては、検察官の方から、積極的に取調べを請求するということですが、その点について弁護人は異議ありませんか」
主任弁護人=「異議ありません」
裁判長=「検察官の立証趣旨はどういうことになりましょうか」
大槻検事=「検察官の昭和四十九年五月二十三日付=証拠調請求書の番号8の立証事項欄記載のとおり、要するに存在するということです」
裁判長=「弁護人の立証趣旨は(取調べを求める理由)の項の(1)のようですね」
主任弁護人=「そうです。弁護人の昭和四十九年五月二十一日付=事実取調請求書記載の(取調べを求める理由)の項の(1)の趣旨により取調べを請求します」
裁判長=「双方の立証趣旨に多少の喰い違いがあるかも知れませんが、裁判所は、取調べるのが相当であると思料しますので採用して取調べることに致します。
弁護人の、昭和四十九年五月二十一日付=事実取調請求書の二、提出命令(2)の大野喜平の実況見分の状況を撮影したネガフィルム一巻については、検察官も、丸京青果の荷札などの問題点を明らかにするという立証趣旨がよく分からないと言っておられますし、裁判所としてもよく分からないので、この点について弁護人の釈明を求めます」
橋本弁護人=「従前から弁護人は、本件死体発掘現場から丸京青果の荷札が出たのではないかということについて問題を提起しておりました。これは、当時の新聞によって明らかでありまして、検察官に対しても釈明を求めて参りましたが、その点を最もはっきりさせるのは、五月四日における死体発掘現場の状況を逐一撮影した写真であろうかと思われます。これを逐一検討することにより弁護人が提起した問題が瞭然とするものと考えます」
裁判長=「弁護人は、そのネガフィルムを検察官から開示を受けて検討しましたか」
橋本弁護人=「検討しました。その結果では、弁護人が従来主張してきたような疑いの結果が、このネガフィルムからでははっきりしませんでした」
裁判長=「記録第二冊の六〇〇丁の写真と六〇四丁の写真を比較対照してご覧下さい。
六〇〇丁の写真は、発掘されたそのままの状態の手拭いの状況を写したものではないかと思います。一方、六〇四丁の写真は、手拭いを切断した状況を撮影したもののように見えますね。そこに、手拭いの右とか左とかを特定していますが、そこに非常にうすいのですが京(◯の中に京の文字)青果という字が写っています。これは、拡大鏡で見るとはっきりしますが・・・。これは、発掘後に、証拠保全のため丸京青果の荷札を使って、左とか右とかを特定したのではないかと考えられます。もっとも、これはまだ最終的な結論を出したわけではありません。
この点については検察官も異議がないとのことなので、採用して検討して頂いても結構だと思います」
大槻検事=「裁判所が必要であると思われるのであれば検察官から取調べを請求します」
裁判長=「裁判所は、必要ないと思います。荷札は後から付けたのではないかと思うのです」
山上弁護人=「丸京青果の荷札が物の左右を特定するために付けたのではないか、というのは裁判所の推測ですか」
裁判長=「そうです」
(続く)