
【狭山事件公判調書第二審4279丁〜】
第七十四回公判 (昭和四十九年五月九日)
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裁判長=「弁護人のほうでは、検察官の昭和四十九年二月七日付証拠調請求書中、番号17・18の書面については証拠とすることに同意しておられますね。つまり、『りぼん』から拾ったのはこうだこうだ、『なかよし』の中にはこういうものがあったということについては同意しておられるので、裁判所としては、果たしてどういう字が、どういう形で、ルビがあったのかなかったのかということを裁判所としては見る必要があると思います。弁護人のご意見は然るべくということなので、全部採用して取調べることにします。
三十四。これを総括致しますと、本日まだ留保中のものもありますが、取調べ可能な証拠は出来るだけ採用して調べるという裁判所の態度でございます。裁判所としては、弁護人・検察官双方より請求されたもののうち、かなり多くの取調請求を却下するという結果になりました。ということは取調べるべくして取調べられていない証拠はもうほとんどないのではないか、証拠はもう出尽くしているという考えに立つわけです。そこで考えますのに、物事に始めがあれば終わりがある、裁判もその例外ではないであろう。今や裁判所としては事実の取調べを終えるべき段階に来ているのではないかと考えます。裁判所は現在までに集取された証拠能力を厳密に検討し、証拠能力のある証拠を厳密に評価するということを通じてこの矛盾に満ちている証拠のジャングルの中に沈潜してそれをよく吟味するという困難な作業を続けていくよりほかに結論に到達する道はないと存じます。しかし、その過程で、どうしても事実の取調べを再開しなければ解明できない疑問が生じますれば、行きがかりにとらわれることなく職権ででも事実の取調べを再開する考えです。
そこで残るのは、留保中のものをどう決定するかということと、公務所照会で寄せられて来たものについての取調べということに次いで、被告人質問ということになります。裁判所としては、控訴審では被告人に弁護能力は無いという規定になっていますので、弁護人からの請求がありますれば、被告人から最後の弁解を聞くという意味合いでその機会を与えるようにしております。前回、中田主任弁護人は裁判所の釈明に答えて、被告人質問は請求するといわれました。ですから正式な請求があれば、検察官の意見を聞いてその手続きを進めたいということで、これは、仮に被告人質問をするとしますと、どの程度の時間をかけるか、事項で限るのか、時間で限るのか、というような点についてもご意見を聞かせて頂きたい。仮に、主質問に一日をかければ反対質問も一日ということになりましょうし、弁護人としては今までにも相当聞いているから一日までかける必要はない、ということでありますれば双方で一日ということになりましょうし、また、弁護人側の被告人質問は当審でも相当やっているから、被告人の手記といったものを出すということであればそれを検察官に提示し、検察官の反対質問を留保した上で、弁護人側の被告人質問はそれで代用するというのも一案であると考えられます。裁判所としてはいずれでも結構です。裁判所が補充的に質問することが仮にあると致しましても、ほんの僅かの時間、僅かの事項しか今のところは考えておりません。
弁護人において、いろいろ協議されて何かするご都合もあるかと思います。検察側もその必要があるかと思いますので、裁判所としては提示を求めたものを検討する時間も必要ですので、この辺で休憩したいと思います。休憩の時間は三十分でいいですか」
大槻検事および副主任弁護人=「結構です」
裁判長=「それでは三十分間休憩します。それから、先ほど申しました『部落』は取調べることについて検察官ご異議はございませんでしょうか」
大槻検事=「それは職権で取調べられるわけですか」
裁判長=「いや。どういう形になるか、そこまではまだ考えておりません。職権ででも結構です」
大槻検事=「格別異議はございません。そういう公刊されている印刷物ですから」
副主任弁護人=「異議ありません」
裁判長=「それでは、これは職権で取調べることにします」
(午後三時から、同三時四十五分まで休憩)
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(続く)