◯写真右半分に見える『狭山市史』四冊は、2014年3月16日に閉店した「ほんだらけ 所沢店」で、閉店セール価格(確か一冊百円だったと記憶する)で入手したブツである。これは正しく狭山事件をバックアップする資料と確信しての購入であったが、ページを開くと瞬時に眠気に襲われ、未だ未読である。

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【狭山事件公判調書第二審4248-53丁〜】
『意見書』
東京高等検察庁 検事 大槻一雄
昭和四十九年二月七日
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おわりに
被告人の捜査段階における自白は、以上述べたところから明らかであるように、部分的には客観的事実に触れない点や必ずしもこれと完全に一致しない点もあり、完全な自白でないことは否定し得ないところであるけれども、被告人が、原判示第一ないし第三の各犯行を遂行したという基本的事実については、これを否定すべき決定的事情が何一つ存在しないのであって、結局、自白は核心に触れており、まさに真犯人の自白として信用をおけるものであると確信するものである。
改めていうまでもなく、本来、供述証拠は、一般的に供述人である当該事実の体験者の観察、認識の不完全、記憶の不正確性、供述表現の不正確性に起因する内容の不正確性を本来内包しているものであり、ことに極刑にあたるような重大犯罪の犯人の自白の場合は、一切の事実を正直に申し述べるという前提のもとでの供述であっても、供述者の胸中には常に個々の事実を供述することによって生ずべき情状面での利害得失を考慮するあまり、その大綱においては真実を自白しながら、犯行の一部やこれを取り巻く付随的事実については部分的にこれを秘匿したり、あるいはこれを供述者に有利になるように粉飾して事実と相違する供述をすることがあるのは、実務上縷々経験するところであって、敢えて異とするに当たらないのである。被告人の本件自白も決してその例外ではないのであって、例えば本件当時、性交経験が全くなかったという被告人の自白が虚偽であったことは、被告人の当審における供述によっても明らかである。
しかるに弁護人の主張は、被告人の自白は、いやしくも供述者が自己に不利益となることが明らかな犯行を自白するのであるから、それ自体、完全無欠のものであるかのような前提に立ち、その自白の内容中、いささかでも客観的事実と相違する点があったり、または自白が客観的事実に触れていない点があれば、直ちにそのことを取り上げて自白は虚偽架空であり、すなわち犯人は被告人ではないというような、言わば短絡的論法が基本的に常用されているものであって、全く独自の前提に立っての独断的主張と思われる節が少なくない。もとより供述証拠の信用性を吟味するにあたっては、そのような供述内容と他の証拠によって認められる客観的事実とを詳細な点にまで立ち入って比較検討をするという徴視的観察が必要であることを否定するものではないが、同時に、個々の供述部分の信用性は常にその供述全体との関連において、巨視的な視点から総合的に判断することが不可欠であるというべきであるのに、弁護人の自白の信用性に関する主張はその前者を強調するの余り、後者を顧慮しないというきらいがあり、言うなれば木を見て山を見ざるの類であると評せざるを得ない。
一方、捜査段階の取調べにおいては、犯行場所や被告人が投棄または隠匿したという証拠物の所在を確定するのに被告人に現地について指示をさせるという、いわゆる引当たりをせず、また、正確な地図に基づいてその関係地点を指摘記入させるというような方法によらないで、単に被告人の記憶のみによる図面を作成させてこれを供述調書に添付するような手法に終始するなど、捜査の方法について反省すべき点のあったことは検察官もこれを認めるにやぶさかではないが、被告人の自白に基づいて被害者の鞄、万年筆が発見されていることなどは、弁護人がいかに強弁しようと消去し得ない明々白々の事実であり、右の自白こそ犯人でなければ知り得ない事実を告白したものであって、この一事を以ってしても被告人の自白調書の信用性が十分認められるのであり、これに加えて繰り返し述べてきたとおり、現場足跡、脅迫状の筆跡についての鑑定結果、被害者の膣内精液から検出された血液型と被告人の血液型の一致など、補強証拠に欠けるところもないと確信するのであって、これを否定する弁護人の主張は失当であると思料する。
以上
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◯少なくとも事件当時、実直で素朴、言うところの朴訥な青年であった石川一雄は、事実上、一家を養っていた兄=六造に捜査の目が向けられていることにおののき、いわば家族を守るためとも言える決断をし、虚偽の自白を始める。兄=六造には確たるアリバイがあったが、当然に警察はこの事実を隠し、石川一雄を追及した。
虚偽とは言え、自白を重んじた当時の捜査機関は、それ見たことかと小踊りし、その奸計は結果的に裁判官をも騙し込み、有罪判決の言い渡しを以って了とした。
ここで我々が学べることは、捜査機関の取調べにおいては、黙秘を貫くことが大事である、ということだろうか。