アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1428

狭山事件公判調書第二審4248-47丁〜】

                                     『意見書』

                    東京高等検察庁  検事  大槻一雄  

                                                        昭和四十九年二月七日

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   四   以上のような考察に立脚すれば、犯行の対象や犯行計画が、未だ具体化していなかった四月二十八日の段階で「少時様」という架空人宛ての本件脅迫状および封筒の表書の記載をしたという被告人の自白は、その信用性において何ら欠けるところがないというべきである。

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   五   つぎに、被告人が本件脅迫状作成の際に使ったのと同種の封筒、本件脅迫状用紙を破り取ったという同用紙と同種、同規格の妹=美智子の大学ノート、並びに脅迫状作成に使用したと認められる兄=六造のボールペンが、前後三回に亘る被告人方の家宅捜索によっても発見されていないことは、一応所論のとおりである。

   しかしながら、被告人方の家宅捜索が行なわれたのは、本件発生後、三週間を経過した五月二十三日以後のことであり、それまでの間にテレビ、新聞、週刊誌等によって本件脅迫状の体裁、内容等が公表されていて、被告人やその家族等もこれを知り得る状況にあり、しかも、封筒、大学ノート、ボールペンの如きはもしこれを焼燬(注:1)するなどして処分しようとすれば容易にこれを成し得るものであるだけに、被告人方の家宅捜索前、すでに処分されていた可能性があったばかりでなく、それが本件脅迫状作成に用いられたと全く同一、同規格のものではなかったとしても、被告人方の家宅捜索によって、本件脅迫状作成に用いられたものと類似の封筒、大学ノート、ボールペンが押収されていることからすれば、被告人がその供述するような状況のもとに本件脅迫状を作成したことの真実性を首肯しうる一般的な状況が存在したことは明らかであり、所論のような厳格な意味での補強証拠がなかったとしても、そのことを根拠に自白の信用性を否定する所論は失当であると言わざるを得ない。

   なお、付言すれば、被告人の自宅から押収した封筒五枚(東京高裁昭和四一年押第一八七号符号二七)のうち、検察庁領置番号の枝番号二号、三号は、本件脅迫状の封筒と同種、同一の規格の物と思料される。

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   六   さらに、被告人が六月二十四日付司法警察員調書で、脅迫状を書くための漢字を拾い出した「リボンちゃん」という漫画の本は、二宮金次郎が薪を背負った絵等が書いてあったと供述している点からすれば、それは集英社発行の雑誌「リボン」昭和三十六年十一月号ではなかろうかと思われる節があるところ、その中に脅迫状の記載に見られる「刑札」の「刑」という字がなかったこと、および被告人のその後の捜査段階における供述によれば被告人が脅迫状を書くに際して漢字を拾い出した本は「りぼんちゃん」だけでなく、「なかよし」三十三年八月号、同三十六年八月号も従として用いたということになり、最終的には「りぼんちゃん」の他にも四、五冊の少女雑誌を利用したというように供述の変遷が見られることは、所論指摘のとおりである。

   しかしながら、この点についても、前記の封筒、大学ノート、ボールペンについて述べたところと同様の事情があったと言い得るのみならず、被告人が脅迫状の作成にあたって「りぼんちゃん」という少女雑誌を利用したという最初の供述は、その内容から見ても被告人の供述がなければ判らないことであり、捜査機関の誘導による供述と見られる余地は全くない。一方、当審証人=市村美智子の第五十六回公判における供述によれば、被告人の妹である同証人が、本件の発生した年の四月末頃「りぼん」という少女雑誌が家にあったかどうかは記憶がはっきりしないが、当時友達から借りて読んだ記憶があり、その他に当時「なかよし」という少女雑誌も友達から借りて読んでいたというのであるから、右証言に徴しても、被告人が脅迫状を作成した当時、右の「りぼん」とか「なかよし」等という、妹が友達から借りたという少女雑誌が自宅にあったことは十分首肯し得るのであって、被告人がその際利用した雑誌は、前記の「りぼん」三十六年十一月号に限定したような趣旨の当初の供述は、その後の捜査結果に徴し、被告人の記憶に不正確な点があったのではないかという観点からさらに取調べを進めたところ、前記のような供述の変遷を見るに至ったものと認めるのが相当であり、被告人の右の点に関する供述の変遷は決して不当な誘導によるものでないことは勿論、これを補強する証拠に全く欠けるというものではないので、所論のように厳密な裏付証拠の存在を必須の前提とし、補強証拠が欠如していることを理由として供述の信用性がないという主張は失当であって理由がないというべきである。

(続く)

注:1「焼燬(しょうき)」=焼くこと。燃やすこと。焼き払うこと。焼き尽くすこと。

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◯原文どおりに引用しているが、検事は「リボンちゃん」「リボン」「りぼんちゃん」という風に、雑誌名を統一せず述べているが、正解はどれだ。