【狭山事件公判調書第二審4248-15丁〜】
『意見書』
東京高等検察庁 検事 大槻一雄
昭和四十九年二月七日
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十二 右のほか、被告人は当審において、狭山警察署に勾留されていた当時、取調べに当たった氏名不詳の三人の警察官から毛髪を引っ張られたり、肩を突かれたりする等の暴行を受けたとか、また、取調べに当たった長谷部梅吉等から「俺達は刑事だから石川は殺してもいけても(注:1)わからない、君をいけて殺してしまっても君の親には逃げたと云えばわからない」と云われて脅迫を受けたことその他を縷々(注:2)供述し、弁護人もこれを理由に自白の任意性がない旨を主張しているが、その主張自体によっても、それらの事実と被告人の自白との因果関係がどのようになるというのかが必ずしも明らかでないのみならず、また当審によっても被告人、弁護人が右のような主張をするのみで、その他にそのような事実があったことを肯認し得る何らの証拠もない。
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十三 被告人が、本件強盗強姦、強盗殺人、死体遺棄、恐喝未遂の事実につき、最初に自白をしたのは、当初の三人共犯説の場合においても、のちの単独犯行説の場合においても、かねて野球のことなどから面識があり、親愛の情を抱いていた巡査部長=関源三に対してであることは、当審証人=関源三の供述に徴して明らかなところであり、被告人もこれを争わないところである。
そして、被告人の当審における供述および証人=関源三の供述によれば、被告人が関源三に対して右自白をするにあたっては、何ら供述の任意性を疑わしめるような状況が窺われないことも明白である。
その後被告人は、終始、右自白を維持し、その後の取調べに際しても詳細に犯行の状況等を供述しているのであって、被告人の右自白を録取した多数の供述調書の内容に徴しても、それが任意の供述であることが如実に窺われるのである。さらに被告人は、原審において終始、本件公訴事実を全面的に認め、自白調書の任意性についても何ら争っていないのであって、そのこと自体、自白の任意性に欠けるものでないことの何よりの証左である。結局、当審の審理の結果に照らしても、被告人の自白調書につき特に供述の任意性に疑いを抱かせるような節は全く見受けられないものと思料する。(続く)
注:1「いけて」=「埋めて」の意。
注:2「縷々(るる)」=細く長く続く様子や、物事を事細かに述べる様子を表す言葉。
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この方が関源三=巡査部長である。