アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1408

   コンビニを出たところで左手首に虫が止まった。ゴ、ゴキかと心臓が停止しそうになるが、よく見るとクワガタ虫であった。サイズは小さく、しかし動きは活発である。

   しばし眺めたのち、もっともっと大きくなれよと隣の畑へ放ってやった。クワガタよ、元気でな。

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狭山事件公判調書第二審4248-13丁〜】

                                     『意見書』

                    東京高等検察庁  検事  大槻一雄  

                                                        昭和四十九年二月七日

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   九   以上述べたところから、本件の捜査段階における被告人の逮捕・勾留には何ら所論のような違法または不当にわたる節はないと思料されるので、結局、本件逮捕・勾留の違法、不当であることを前提として自白調書の許容性と任意性を否定する所論はその前提を欠き、失当(注:1)であって理由がないものと思料する。

注:1「失当(しっとう)」=「当たっていない」「間違っている」

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   十   つぎに、被告人の自白の任意性について考察する。

   被告人が、本件の強盗強姦、強盗殺人、死体遺棄並びに恐喝未遂等の事実を司法警察員に自白するようになった事情につき、被告人は当審第二回公判において、つぎのように供述している。

   すなわち、被告人が川越警察署で本件事案の取調べを受けた際、取調官の長谷部梅吉等から、自白をすれば十年で出してやる、窃盗等が九件もあれば、十年くらいは刑務所に入っていなければならないが、本件について自白すれば必ず十年で出してやる。俺達は弁護士と違って嘘を云わない。嘘を云うと首になってしまう、などと云われ、再三に亘(わた)って自白を勧められたので、長谷部等の言を信用し、約束どおり十年で出して貰えると思って本件に関する虚偽の自白をした。被告人が右のような警察官の言を信用するに至ったのは、近所の人で自動車一台を盗んで八年の刑に処せられた人があることを知っていたので、警察官の云う窃盗等が九件もあれば十年くらいは入っていなければならないという話は本当だと思ったし、また当時、被告人は弁護人に対する不信感を抱いていた際のことでもあったので、警察官の云うことは間違いないと思ったからである。

   被告人が当時、弁護人に対して不信感を抱くようになったのは、その前に狭山警察署に勾留されていた当時、中田弁護人から六月十八日に裁判があると云われ、同日、川越の裁判所へ行くつもりでいたところ、六月十七日に再逮捕されて川越警察署に移監されたまま、十八日になっても裁判がなかったので、弁護士は嘘をついたと思い、立腹して警察官や検事にも弁護士は嘘つきだと云った、というものである。

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   十一  しかしながら、被告人の右供述は、当審証人=長谷部梅吉の供述および当時被告人を取調べた警察官等の当審証言によってもこれを肯認し得ないばかりか、当審証人=中田直人の供述に徴すれば、到底措信(注:2)できないものと思料する。

   すなわち、当審証人=中田直人の第六十一回公判における供述によれば、同人は、本件の第一次起訴の翌日である六月十四日に、被告人の弁護人として、浦和地方裁判所川越支部に対して勾留取消、保釈、勾留理由開示の各請求を一括して行ない、六月十五日、被告人に接見して同人に右の各請求を行なったことおよび右の各請求がそれぞれどういうものであり、その結果どうなるものかなど、手続きの進行面についても逐一これを説明し、勾留理由開示手続の期日が同月十八日と指定され、同日、川越の裁判所で右手続が行なわれることも話して、主として勾留理由開示手続に重点を置いて説明した。ただ当時、恐喝未遂が起訴されていないことと相俟って、保釈になる可能性が強いものと考えていたので、勾留理由開示手続が行なわれる十八日以前に保釈になれば裁判所へ行く手続がないであろうということも説明した。なお、保釈になった場合、再逮捕されるかも知れないという見通しがあったので、被告人にそのことも説明した。また、当時の接見時間は比較的長く与えられており、当日の接見も約四十分は被告人と話をしたと思うというのである(当審記録六九一九丁裏ないし六九二二丁)。

   とりわけ職務熱心であり、すぐれた説得力の持主である中田弁護人が、右のように四十分もの時間を費やして、勾留理由開示など各手続の説明をされ、しかも六月十八日以前に保釈決定があれば、勾留理由開示手続のため裁判所へ行くことがなくなるであろうし、その場合には再逮捕されるかも知れないということまで懇切丁寧に説明をされたことであり、当時の被告人としても、まさに当面の重大関心事であったと思われる右のような事項につき、これを聞き落とすとか誤解する等ということは到底考えられないものといわねばならない。

   また前記の被告人の、検事=河本仁之に対する六月十一日付無署名供述調書、警部=清水利一に対する六月十二日付無署名供述調書によっても明らかなように、被告人は自らの不利益をもたらすような内容の供述調書には署名押印を拒否したり、「私は裁判所へ行って全部云います。警察に居るうちはどうしても云えません。悪いことは隠し通せるわけでは有りませんから弁護士さん立会いで決りをつけます。人数が増えて警察ではまた大変でしょう。これ以上何を聞かれても言いたく有りません」(右:清水調書)と供述するなど、はっきりした権利意識の持主である被告人が、本件のような重大事件につき、警察官から自白をすれば十年で出してやると云われたのでこれを信用して自白するなどということは絶対にあり得ないというべきである。

   本件を自白すれば必ず十年で出してやるという警察官の偽計によって自白をさせられたという被告人、弁護人の主張が採用に値しないことはあまりにも明白である。

(続く)

注:2「措信(そしん)」=「信頼をおく」「信頼すること」

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