アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1404

狭山事件公判調書第二審4248-7丁〜】

                                     『意見書』

                    東京高等検察庁  検事  大槻一雄  

                                                        昭和四十九年二月七日

                                            *

  五  もとより、事件発生以来行なわれていた捜査は、強盗強姦、強盗殺人、死体遺棄、恐喝未遂という一連の事件についての総合的な捜査であって、第一次逮捕・勾留の時点においても捜査機関が被告人に強盗強姦、強盗殺人、死体遺棄の嫌疑を抱いていたことは否定できないところである。

   ところがその反面、当時の時点で捜査機関が抱いていた被告人に対する嫌疑の程度は状況的にかなり疑わしいとは言い得ても、強盗強姦、強盗殺人、死体遺棄については、事件と被告人との結びつきを立証し得る客観的な証拠が十分でなかったために必ずしも犯人に相違ないというまでの確信を抱くに至っていなかったことも明らかである。そもそも恐喝未遂を含めた一連の本件事案は事件発生の経緯と態様から見て、同一犯人によって敢行されたと思われる蓋然性がかなり大きいとは言い当ても、恐喝未遂(別件)と本件である強盗強姦、強盗殺人、死体遺棄は別異の犯人によって敢行されたという可能性もないわけではないのであって、右のような事件の特異性と重大性を考慮すれば、勢い捜査機関として被疑者の身柄を拘束するにあたり慎重にならざるを得ないのは当然であるといわねばない。

   しかも、第一次逮捕・勾留の初期の時点で、被告人と本件事案との結びつきを証明し得る資料は、筆跡鑑定の中間結果と血液鑑定の結果だけであり、筆跡は恐喝未遂の令状請求にあたってはかなり有力な証拠と言えるにしても、これに加えて血液鑑定の結果だけでは、本件についての疏明資料として十分でないことが明らかである。もっとも、当時の捜査段階で、被害者善枝の死体の両腕を縛ってあった手拭いは、狭山市田中の五十子米屋が昭和三十八年正月の年賀用として得意先へ配布したもので、被告人もこれを入手することが可能な状態にあったこと、被害者善枝の死体の目隠しに用いられていたテーブルマーガリン月島食品工業と染め抜いたタオルは、被告人がかつて東鳩製菓株式会社保谷工場に勤務した当時、野球試合に出場した賞品として入手したと推定される状況にあったことも一応判明していたようではあるが、前記の筆跡や血液型の疏明資料に右タオル、手拭いの捜査結果などを加えても、本件の令状請求をするにはなお資料不十分と考えられるのであって、結局、当時としては本件の令状請求に必要な疏明資料が十分でなかったものというべきである。しかも、恐喝未遂と本件の前記のような密接な関連性に着目すれば、恐喝未遂で被告人を取調べることによって、自ら被告人と本件との関係も明らかになると思われる状況にあったのであるから、むしろ第一次逮捕・勾留の初期の段階においては、別件たる恐喝未遂の取調べを目的とし、これを中心として傍(かたわ)ら本件の取調べを行なうという方針のもとに、被告人に対する強制捜査に踏み切ったものと思料されるのである。

                                            *

  六   つぎに、第一次逮捕・勾留の基礎となった恐喝未遂の事実は、かなり悪質で重大な事案であり、前記程度の疏明資料に徴しても逮捕・勾留の理由と必要が十分であったことが明白である。また、別件のうち、窃盗、暴行の事実は、いずれも比較的軽微な事案ではあるが、情状いかんによっては、当然これを起訴すべきことが考えられる事件であったので、右恐喝未遂の事実と併せてこれを捜査するため、第一次逮捕・勾留の被疑事実に加えられたものと認められるのであって、これも、右のような形で行なわれる以上、逮捕・勾留の理由と必要があったものと思料される。

(次回、"七"へ進む)

                                            *

◯よくもまあ、こんな危なっかしい根拠で公判を維持したものだと感心するが、さて、十年くらい前に古本屋で購入した「『狭山・虚構の判決』師岡祐行  編著」に目を通しているが、著者はこの裁判を傍聴していたのかと思わせる記述があったのでここへ紹介しよう。

   『法廷で、石川被告は河本検事の取調べの状況を語るのだが、「(検事が)自分の前にある机の上に腰掛け、片方の足を他方の膝の上に載せる格好を示して調べた」ことを明らかにすると、この時、傍聴席がややどよめいた。すると井波七郎裁判長は顔の筋肉ひとつ動かさず、「アメリカでの取調べではよく見られる光景ですな」と短く批評の言葉をさし挟んだ。あたかもこんなことは取り立てて問題にすることはないと言わんばかりであった。ただし、公判調書には、どういうわけか、この井波裁判長の発言は記録されていない。』

                                            *

   公判調書には記録されていない裁判長の発言を知っているということは、やはり師岡氏はこの時、法廷で裁判を傍聴していたのであろう。それにしても驚くべき記憶力である。なお、速記官は職務上、法廷での発言は全て記録したであろうことは間違いない。そののち何らかの指示・命令がなされ、件の発言は速記録から削除されたのであろうことが窺われる。いやぁ、この狭山事件とは疑惑、疑問、疑義にまみれ過ぎであるな。

◯ところで連日の暑さに近所の野良猫もこの通り・・・。