
(遺体発見現場)

(遺体とともに埋められていた玉石)
【狭山事件公判調書第二審4227丁〜】
『玉石と残土』
死体埋葬現場の客観的状況と自白内容との矛盾
弁護人=藤田一良
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三、石川一雄君の自白
(1) 自白が、各種の証拠の中で、特別の意味で評価されるのは、それが、被疑者が自己に不利益な事実を認めた供述であり、合理的・打算的に行動する通常人のあり方からみて異例のことであるので、やってない者がその様なことを言うはずがないとして、その真実性を信じることができるものと軽率に考えられ易いことと(このことによって捜査官は自白を被疑者から得ようとして、無理な取調べを行なうことは、幾多の冤罪事件の記録がこれを示している。)、余人には不合理且つ複雑にみえる犯罪にまつわる諸事情が、現実に「ヤマを踏んだ」犯人でなければ分からない事実として、犯人によってのみ、合理的且つ整然と説明されることができるという点にある。
石川君の自白は、数多くの調書となって存在しているが、死体埋没に関して記載された部分は、何故か驚くほど少なく、しかもその内容は、全く具体性を欠いていて、現場の状況が我々に投げかける疑問点について、真犯人のみがなし得る合理的・納得的な説明を少しもなし得ていない。すなわち、現場状況の疑問点と石川君の自白とを対比して考えてみるだけで、石川君が現実に犯行に参加していないということは明らかである、と言い得るのである。
(2) 石川君の自白の中で、死体の処理について比較的詳細に記載されているものは、昭和三十八年六月二十五日付の、司法警察員:青木一夫の作成にかかる調書である。その中で石川君は、
「私はシャベルを持って死んだ善枝ちゃんをかくしておいたあなぐらのところへ帰ってきました。それから前に話してありますがすぐそばえシャベルを使って長さ二めーとるぐらい横が一めーとるくらい深さが私の腰くらいの大きな四角つぽい穴を掘るのに大体三〇分くらいかかりました。」
「それから私は善枝さんの身体を引上げると自分のもものところへ押しつけて持上げ善枝ちゃんの頭を右の方にして運びお茶の木と反対の麦畑の側から穴の中え善枝ちゃんを落としました。そのとき善枝ちゃんの頭が上になったか下になったかわかりませんが善枝ちゃんの頭が二軒家が二軒並んでいる方になっています。それから善枝ちゃんを吊るしておいた縄はそのままくつつけたままで埋めました。私が善枝ちゃんの手を縛った手拭は縛ったままめかくしをしたタオルもめかくしをしたまま埋めました。そして泥をかけておき穴を元通りにしておきました。」
と述べているだけで、玉石、ビニール片、茶の葉等については、全く触れていない。
もし石川君が犯人だとすれば、たとえ自分がこれを持ち込まず、自然のままで、たまたまその場所に存在しただけだとしても、これらについて、特に玉石などは穴堀り作業または埋め戻し作業の邪魔になるなどの理由で、何らかこれについて述べるはずである。これらについて自供が全く触れていないのは、石川君が犯人でないことを示すことは勿論であるが、それらの物が存在する意味について、捜査官が一定の合理的な解釈ができず、その結果これに基づいて石川君にもっともらしい虚偽の自白を押し付けることが出来なかったか、あるいは、捜査官に一定の解釈は得られたが、その結果、描かれる犯人像がどうしても石川君と一致しないので、敢えてその解釈に沿った押し付けを石川君にすることが出来なかったか、のどちらかであると考えざるを得ない。
(続く)
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◯この狭山事件の行方は、ことによっては帝銀事件と同様の結末を向かえるかも知れない。つまり冤罪が明らかであるが、狭山事件の犯人は石川一雄であるとされたまま歴史に刻まれてゆくと・・・。