アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1354

狭山事件公判調書第二審4111丁〜】

                  『自供調書に存する合理的疑い』

                                                                弁護人=山下益朗

                                            *

(3、ビニール風呂敷の説明の仕方・三の続き)

   ビニール風呂敷の強度は簡単な実験によって確かめることができる。まず市販のビニール風呂敷(厚さ0.111ミリ、証拠物は平均0.085ミリ)を人間の足首に相当する物体に一巻きして縛り、他方証拠物とほぼ同様の太さの木綿紐一本を束ねて先端を輪状とし、その輪の中へ同紐両端を差し込んで、引けば締まるようにして出来る輪の中へ前述ビニール風呂敷の両角を差し込んで結び、木綿紐両先端を引けばビニール風呂敷の結び目を紐の両枝がしっかり緊縛出来るようにしてビニール風呂敷中央部(足首)を地上に固定させ、同木綿細引紐両先端にバネ秤を固着させてこれを垂直に引っ張り上げるとビニール風呂敷両枝が切断する時の荷重値が測定される。この方法は原理的には死体を逆さ吊しにした場合と同じことである。徐々に引っ張り力を加えると秤の平均荷重値53kg前後でビニール風呂敷の片方が切断されるが、稀に両枝がほとんど同時に切断する。この場合特徴的なことは例外なく、木綿紐両枝に密接する箇所が破断されることであるが、それは密接部分に応力集中のあることを示すものである。

   つぎに53kgの物体(死体に似せる)を同方法で地面の上を引きずると、地面が平らかで砂状のとき、静止摩擦係数は0.5くらいと考えられるので53kgを標準にすると53kg×0.5=27kgで死体は完全に地面を移動する。証拠物と市販風呂敷の厚さを考慮し、切断荷重値40kgあるいはこれ以下としても、証拠物ビニール風呂敷は切断することなく死体を容易に地上で引きずることが可能である。ビニール風呂敷は万が一にも「一寸引っ張ったら切れる」ほど弱いものではないことが科学的にも明らかである。

四、前記方法による場合で、平地に安置された死体(足首)を右手あるいは左手で固定させ、他方の手で引っ張り力を加えた場合、いかに怪力無双でも、ビニール風呂敷は切断されない。片方の手だけで53kg荷重値を生じさせることは物理的に不可能だからだ。複人数でやれば可能となる。

五、ところで、大野実況見分調書にいう「この細引紐の末端の一本が蛇口となって居りその蛇口の中へ白ビニールの風呂敷の角の二枚が差し込んで結んである」態様(つまり蛇口が自動的に締まることのない状況と判断して)で木綿紐を引っ張っても同調書添付写真の如く両角が同時(両方とも)に破断することは実験的には発生しない(ビニール風呂敷でまず物体を縛った場合も同じ)。つまり片側がまず切断され、他の枝は残る。

   右調書の説明中、頸部または足首についての「ひこつくし様に締められていた」というスケッチと、ビニール風呂敷切れ端が木綿紐に挟み込まれている状況のスケッチとは異なっているので、後者の場合は、蛇口の直径が固定した輪状となっており、その中に単純にビニール風呂敷両端が差し込まれ結び合わされていたと判断するのがより正しいとも考えられる。前記引用文中「この細引紐」がすでに"ひこつくし"様に締められている木綿紐の一端を指していることを考えるとき、より一層このことが現実的であろう。そうだとすると、結び目と蛇口との摩擦が複雑となり、およそ風呂敷両枝に平等の荷重がかかる可能性は全くなく、片側のみの破断の生じることが実験的に明瞭であり、前記写真の状況を説明することは不可能であろう。つまり証拠物両角が引っ張り力で切断したとは考えられない。

(続く)