アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1353

狭山事件公判調書第二審4110丁〜】

                  『自供調書に存する合理的疑い』

                                                                弁護人=山下益朗

                                            *

3、ビニール風呂敷の説明の仕方

   ビニール風呂敷を犯行手段に供したその使用方法及びそれが切断した状況に関する自供調書の説明は大きく変転し定まるところがない。自供調書について指摘できる合理的疑としてはつぎの事項がある。

一、すでに荒縄、木綿細引紐が用意してあるのに、重量物の牽引にそれらを使用せずにビニール風呂敷のように一般に弱いと思われているものを使用したとされる不自然さである(「私はその時、足を縛るところだけ特別に丈夫なものを使わないと、普通の縄では切れてしまうと思った」……昭和三十八年六月二十八日付司調)。また六月二十五日付司員では「その麻縄のようなものや縄をつなぎ合わせ、縄の方は二、三本合わせて切れないようにした」というのであるから、犯人の判断ではビニール風呂敷は、縄を二、三本撚(よ)り合わせたよりも強いと判断したことになり、いよいよ不自然である。

二、証拠物(ビニール風呂敷)の本体には明らかに、切れた両角を結ぶ対角線とほぼ直角に、長さ約百三十ミリ(実測)の裂け目が走っているが(大野実況見分調書添付写真)、自供調書の説明のように「引っ張った」としても、その引っ張り力によって生じたものでないことは明らかである。何故なら自供調書とほぼ同様の方法をとった数多くの実験経過(後述)からいっても、切断はまず結び目付近から開始され且つそこで切断されることが断定的に主張できるからである。また、証拠物に前述の引っ張り力が加わる前から右裂け目が存在している時には、右引っ張り力が生ずる範囲内に右裂け目がある以上、切断が右裂け目から生ずることも実験例から証明される。したがって本証拠物の切断が引っ張り力によって生じたものと仮定すれば、右裂け目は切断後の引っ張り力によって生じたものと判断せざるを得ないのである。

   しかし両角切断後、右裂け目が生じたと考えてよい直接証拠及び間接証拠は全くない。逆に引っ張り力が生ずる範囲内にある裂け目が引っ張り行動の以前から存在していたとすれば、証拠物の如き結び目付近での切断が説明出来ないのである。

三、捜査当局の判断を忖度するに「ビニール風呂敷は本来弱いものであるのに、犯人は強いものと誤解して死体を吊るすのにビニール風呂敷を使用しようとし、これで両足を縛り引っ張って試したところ、ぷつりと簡単に切断された。その証拠に両隅が、緊縛した"ひこつくし"に挟まれて残存し、犯人はそのままにして忘れた」。この推論は当局がビニール風呂敷は簡単に切れるものだと判断したことを示すものである。このことはビニール風呂敷に関する最終的段階での供述が「一寸引っ張ったら切れた」(昭和三十八年七月七日付検面)ということからも明らかである。

(三は続く)

                                            *

○ところで先日、現在引用中の狭山事件第二審公判調書のコピー漏れに気付き、老体に鞭打ちしつつ某図書館へ趣きそれを複写し、この記録を完璧に我がものとすることが出来た。この図書館でのコピー代金は一枚につき十円を払わなければならず、社会の底辺層に生きる者としては貴重な酒代を代償にせねばこれらの記録物に触れられないのかという義憤にかられつつも、やはり読みたいという興味心には逆らえないのであった。

・・・・・・なんとか複写は終えた。しかしこのままでは読みづらいので、ここからひと手間かける。

まずは複写した紙を一枚一枚、二つ折にする。

うむ、なかなか手間がかかるが、一杯やりつつ、この地味な作業に勤(いそ)しむのも、たまには良いものである。

複写した紙に穴を開けるのだが、ここで千枚通しなる文房具などを使用すると余りにも原始的過ぎるので写真の近代的ツールの出番となる。

このツールを何と呼ぶか知らぬが、様々な紙のサイズに対応する、よく考えられた使い勝手の良い道具である。

しかし、酒に酔って使用するとこうなる・・・。

 

穴を開けた公判調書を、昭和時代を強烈に匂わせる黒色板表紙で挟み、黒色細紐を通し製本する。

この状態で製本は完了し、老生は読書に移るのだが、この盛大に昭和感を盛り上げる黒色板表紙の生産も時代の流れにより消え去るという噂だ。川越で文房具屋を営む老店主の話では、役所関係はすでにこの歴史的遺産と呼べる黒色板表紙の使用をやめ、プラスティック製のファイル使用へと移行しているという。