アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1339

狭山事件公判調書第二審4081丁〜】

                      『自白強要、屈伏への経過』⑤

                                                                弁護人=阿形旨通

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六、再逮捕の翌日である六月十八日付で、川越署分室における石川被告の供述調書が三通作成されている。

   ①強盗強姦殺人被疑事実否認の供述を記載したもの:警察官=山下了一、同=遠藤三作成。

   ②「しょうじさん」に関する供述を記載したもの:同=青木一夫、同=遠藤三作成。

   ③いわゆる「新調書」で、「御調べの事件」は「三人でやった」との供述を記載したもの:同=青木一夫、同=遠藤三作成。

   ②についてはここでは触れる必要はない。

   右③が①と同日に作成されていること、その後の六月二十日の勾留尋問に対しても①の内容と同じく否認であること、その他前述の経過を綜合すれば、③に記載されている「御調べの事件」が、本件善枝ちゃん殺しを指すものではなく、ジョンソン基地・パイプ窃盗の件を指すものであることは明白である。

   中田弁護人も指摘されているとおり(中田直人証言。第二審第六十一回公判)、それは、石川被告の供述し、あるいは供述しようとしたパイプ窃盗の件の記載内容を、捜査官らが故意に不明確にしただけでなく、あまつさえ「御調べの事件」などと称して、あたかも善枝ちゃん殺しの自白であるかのごとく見せかける記載にしたことは重大な問題である。これは後日、本件三人犯行説へとすりかえ、ねじ曲げて自白を石川被告に押し付ける足がかりを築いた謀略的調書であるといわなければならない。

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七、我が日本国憲法は、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない」(三一条)といういわゆる「法の適正手続」を規定している。この適正手続の保障は、刑事手続の面だけにとどまらず、国家対国民の生活の全分野に及ぶべきものである。

   刑事手続の面を主たる対象として、憲法は「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる」(三六条)と強い決意を表明するとともに、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」(三八条一項)と規定した。この供述の自由、黙秘の権利の保障について、憲法はさらに「強制、拷問、若しくは脅迫による自白又は不当に長く勾留又は拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない」(三八条二項)と定めることによって、その保障を現実的に実効あらしめようとした。刑事訴訟法は、憲法の右規定の趣旨をより明確にするために、解釈的・確認的に「その倦(うむ)任意にされたものでない疑いのある自白(注:1)」も「これを証拠とすることができない」(三一九条第一項)と規定しているのである。

(続く)

注:1 =ここの文章は言い方を変えると「任意に自白したとは言えない状況での自白は、証拠として扱われない」となろうか。