【狭山事件公判調書第二審4077丁〜】
『自白強要、屈伏への経過』②
弁護人=阿形旨通
*
三、狭山事件捜査陣は、第一次逮捕勾留、延長勾留中の石川被告取調べの全経過をもってしても、強盗強姦殺人、死体遺棄についてはもちろん、恐喝未遂についても起訴できなかった。
六月十七日、捜査官らは、石川被告を狭山署から保釈釈放するや即時同所において、強盗強姦殺人、死体遺棄の被疑事実で再逮捕し、直ちに特設された川越署分室に移監したのである。捜査官らは同日、中田弁護人らの接見要求を拒否しつつ、その間「午後九時四十分頃から十時頃まで『今度は善枝さん殺し(のことばかりーーー被告人供述、第二審第二回公判)で調べるんだ。お前はどんなに言わなくてもだめだ、証拠はそろっている。弁護士にいくら頼んでもだめなんだ』などと脅しながら石川被告を猛烈に調べた」(中田直人証言。第二審第六十一回公判)。その翌日、長谷部刑事は朝から遠藤刑事、斉藤刑事、某刑事らと共に石川被告を取調べている際に、「善枝ちゃんを殺したと言えば、お父ちゃんに会わせてやる」と利益誘導した。石川被告が「だけど俺は知らない」と答えると、「そんなことを言ったらいつまでも帰さない」と脅迫する。石川被告は「帰さなくてもしょうがない」と頑張った。夕方には原=検事がやって来て「話せばすぐ帰してやる」と利益誘導にかかった。石川被告は「だけどそんなことは知らない」と言って拒否した(被告人供述。第二審第二回公判)。
このような苛酷な、そして今度は形式的にも実質的にも善枝さん殺しの一点に絞った追及が続けられた中で、それにも関わらず石川被告は、早くとも六月二十日の勾留尋問の時までは、殺人の被疑事実を自白していない。すなわち、六月二十日、川越警察署分室で行なわれた川越簡裁平山三喜夫=裁判官による勾留尋問に対して石川被告は「事実(善枝さんのこと)は知りません。事件を起こしていないということをお話しするという意味のことを話しただけで、裁判所へ行っても善枝さんのことについては知らないから知りません」と答えているのである。
なお、ここで早くとも六月二十日までは、と述べたのは、六月二十日付で「俺は関さん善枝ちゃんは殺さないんだ」としつつも、入間川の友達、入曾の友達との三人共犯によることを自白した旨の記載のある、警察官=関源三、同清水輝雄署名押印の供述調書が存在するけれども、この調書が六月二十日に作成されたものであることは疑わしく、六月二十三日頃の作成ではないかと考えられ、そのことはすでに詳細に論証されているところだからである。
(続く)