アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1335

狭山事件公判調書第二審4075丁〜】

                      『自白強要、屈伏への経過』①

                                                                弁護人=阿形旨通

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一、狭山事件捜査陣が石川被告に、最初まず三人共犯説の形で自白を押しつけ、石川被告がその長期間続けてきた否認を撃破され、ついに自白強要に屈伏するに至った経過を、同人の苦悩や心中の葛藤など、心理的状況の分析に立入りつつ、明らかにしたい。

二、狭山事件特捜本部は五月二十三日、石川被告を窃盗、暴行、恐喝未遂各一件を被疑事実として逮捕した。

   石川被告は、恐喝未遂の点だけは除き、その他の少なからぬ被疑事実と余罪についてはすべて、逮捕の翌日、五月二十四日付の警察官=山下了一作成の自白調書における竹内賢(但し、「名前を知らない二十才ぐらいの男を」伝々として)に対する暴行(被疑事実の第一)、高橋良平所有の作業服窃取(被疑事実の第二)についての自白をはじめとして、次々に自白をしている。(但し、この高橋良平に対する件については、石川被告人は第二審第二回公判において、盗んだのではなく、借りたのであり、洗って返してくれと言われていたところ、返す前に逮捕されてしまったのだ、と弁明している。不法領得の意思の有無、窃盗の成否につき問題のある事案であり、「盗んだ」との評価を含む自白がそのまま正確なものと解するわけにはいかない。しかしこの点は、本主題における論旨には直接影響するものではない。第一次起訴の訴因第九にかかる横領の点についての自白にも、不法領得の意思の有無につき問題があるが、本論旨に影響なきこと、前同様である。)

   そして、検察官は六月十三日、石川被告を窃盗四件、森林窃盗一件、傷害一件、暴行二件、横領一件の各訴因で起訴した。

   しかしながら、無実である恐喝未遂(被疑事実の第三)の点については、石川被告は前述の五月二十四日付調書にあるように「五月一日に・・・・・・中田栄作さんという家に・・・脅迫状を持って行ったのではないかということですが、私はそんなことは知りません」と否認し、以後これをくつがえすことなく一貫してきた。そこで検察官も、六月十三日に石川被告を恐喝未遂では起訴することは出来なかった。

   この第一次逮捕が、強盗強姦殺人、死体遺棄、恐喝未遂事件、すなわちいわゆる狭山事件を実質上の被疑事実、つまり本件とするところの別件逮捕、分割逮捕であり、第一次逮捕、勾留、延長勾留の全期間を通じて、当初から石川被告に対する右本件についての追及に主力が注がれていたことは、すでに多くの証拠により明らかである。この別件逮捕、事件分割逮捕、再逮捕の違法性については本日午前、三上弁護人も詳論されたところである。

   ここでは、主題との関連で次の二つの事実を指摘するにとどめる。

   一つは、捜査検事=河本仁之証人は、この勾留期間中に、自分は「善枝さん殺しについてもかなり突っ込んで(被告人に)聞いている」、「窃盗や暴行などの(逮捕勾留被疑)事件については、私はあまりポイントをおいて聞いていませんでしたが、それについては(被告人は)素直に認めていた」、「(私の関心は)恐喝未遂及びそれに関連する善枝さん殺しにあった」と証言している(第二審第四十回公判)ことである。第一次逮捕の別件逮捕性が当の捜査官の側からも明瞭に告白されているのである。

   もう一つは、狭山警察署長=竹内武雄証人の証言である。同人は、「(石川を)逮捕勾留し、勾留を延長したが捜査が進展しない。中=刑事部長が特捜本部の本部長、私が副部長であり、私も責任があり、事件を(早く)処理しなければならないという気持ちでおった。そこで、石川宅の近くに住み、石川とも一緒に野球などもしたことのある関=巡査部長に着目し、同刑事に対してなら石川も真実を話すであろうと考えて、六月十二、三日頃、狭山署で同刑事と二人で石川と会った」と述べ、「第二次逮捕、川越署分室移監の石川取調べについても、私が中=本部長に関=刑事を推薦して、それまでは捜査員への食糧補給班を担当していた同刑事を石川取調べの補助に当らせた。石川本人をほぐし、自白させるには関部長が一番適当であろうと判断したのである」旨証言し、関=刑事に「非常に重要な役割を与えたわけですね」という問に対し、これをはっきりと肯定しているのである(第二審第四十一回公判)。

(続く)

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   ○写真は数々の疑惑・疑念・疑義を残しこの世を去った関源三巡査部長。ただ、それらを見抜けなかった、 誤判を防ぐ注意を怠った裁判官らに重大な過失があると、最近になってようやく気付く。