【狭山事件公判調書第二審4047丁〜】
「逆吊りはありえない」
弁護人=木村 靖
(2)."石川自白調書の不合理について"の続き
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b. ビニール風呂敷で足を縛る理由の不合理について
被告人の自白によれば、足をビニール風呂敷で縛る理由として「特別に丈夫なものを使わないと普通の縄では切れてしまうと思いました」というのである。しかし死体を逆吊りにする場合に足の部分だけ特別丈夫な縄を使わねば切れてしまうと思った理由は何であろうか。この点の理由がもう一つ不明である。
また、仮に使わねばならないとしても、荒縄と木綿紐とビニール風呂敷が手元にある場合に、いずれがそれに適しているかということになれば、伸びやすく締まりにくく、ほどけやすいというビニールの性質に加え、紐でなく風呂敷であるということから、ビニール風呂敷が一番それに適さないことは直ちに判断できるはずである。この点の自白の不合理は捜査官の想定に沿って被告人をして語らせたということを疑わしめるに十分である。
c. 縄を探しに行く時、ビニール風呂敷で善枝の足を縛ったという点の不合理について
六月二十九日付の調書には、穴倉の側に運んだ時、「私は善枝ちゃんの両足を開かないようにビニール風呂敷でしばったように思います」という自供がある。縄を探しに行っている間に両足をビニール風呂敷で縛っておいたという自供は、この日付の調書以外にはないのであるが、仮にこのようなことが行なわれたとするならば、縄を探して来たのち細引紐をビニール風呂敷につなぐ時、そのビニール風呂敷をほどいたのかそのままにしておいたのかについての自白調書があっても良さそうであるが全く存在しない。
捜査官にこの点についての関心がなかったのか、不可解な点として指摘しておく。
d. 穴倉に死体を隠したことを最初から言わなかった理由の不合理について
六月二十五日付自白調書によると、穴倉に死体を隠したことを話さなかった理由として「こんなことが分かるとその穴倉はもう使えなくなってしまうと思ったからです」ということになっている。本当にこんな理由が立つのであろうか。穴を使うのは他人でその人のことを心配しているような理由であるが、そんなことを気にするような犯人であれば縄やシャベルを盗んだり、死体を農道に埋めたりするであろうか。これは捜査官の追及に思案し困った被告人の必死の理由付けを窺(うかが)わせるもので、全く不合理な理由としか考えられないし、本当の犯人あればこんな重大なことは最初から自白しているはずである。
(続く)
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○・・・「こんなことが分かるとその穴倉はもう使えなくなってしまうと思った」との、畑の所有者への迷惑を案じ気遣いを見せた石川被告の供述だが、この供述に対し、何の疑問も感じず調書化した取調官の脳は正常であろうか。「いや、君、それは違うでしょ」「あなた人を殺しておいて、なぜ芋穴の今後の行方を心配するのか」と感じた老生の脳が異常であろうか。
弁護人のいう「本当にこんな理由が立つのであろうか」という嘆きに同感するが、のちにこの裁判は被告に無期懲役の判決を下している以上、脳が異常なのは 老生やこの弁護人のほうであることは間違いなさそうだ・・・。
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まあ、老生が異常かどうかはどうでもよく、気分転換に大好きなルパン映画をボーッと見ていたところ、とんでもない事実を発見する。
画像は言わずと知れた「ルパン三世 カリオストロの城」の一場面であり、彼等が愛車FIAT500のパンクによるタイヤ交換中、その横をクラリス運転のシトロエンとそれを追う車が駆け抜け、状況を把握したルパンらが両車を追い始めるシーンである。
この時、FIAT500の屋根には丸めた毛布やらバケツなどの物資がテンコ盛りであるが、車がロケットスタートを決めた直後、おお、次元が屋根上の物資を車内へ取り込んでいるのである!
いやあー、何度も見ている映画なのに今まで気付かなかったなぁ。ちなみにこのシーンはほぼ一瞬といえる。
空気抵抗が減ったおかげか、FIAT500はターボチャージャーの助けを得、補足すべき車両へと迫る。
おお、ほらほら屋根の上の積載物は全て車内へ搬入されている!非常に細かい描写に感激するも、だが五右衛門の姿は車内には見当たらない。毛布とバケツに隠れてしまっているのだろうか。
さらに細かい描写が確認できるシーンとしては、追跡開始時、「乗れ!次元」と声をかけルパンが運転席ダッシュボード下のレバーを引いた後、画面は車両後部のエンジンに移り、ターボチャージャーが始動する場面が映るが、その横で、タイヤ交換を終えた次元がその仕上げにホイールキャップを足で蹴りながらはめているのであった!
画面左下に次元の足(靴)が見える。なおホイールキャップを靴で蹴る時に出る音、「カン・カン」という打撃音もしっかり表現されている。ここでエンジンルーム内に目を移すと左上の奥に燃料フィルター風の部品、右奥に赤いプラグコードが見える。このコードが2本ということはプラグも2個なので、つまりこの車両のエンジンは基本的には元々積載されている空冷直列2気筒OHVが使われ、これにターボチャージドシステムを組み込んだものと言えよう。自動で開閉するリアエンジンフードといい、見た目は古いが中身は高度で緻密な改造が施されている。
果たしてルパンはどこのお店に依頼し、このスペシャルなFIAT500を完成させたのかと、本日も楽しく夢想する。