【狭山事件公判調書第二審4035丁〜】
「強姦・殺害・死体処理に関する自白の虚偽」⑭
弁護人:橋本紀徳
*
(九:"強姦に関する自白の疑問点"の引用は割愛しました)
十、結び
(一) 以上述べてきたように、本件の死体に残る痕跡は、ことごとく強姦・殺害の方法及び死体処理に関する自白を否定するか、あるいはこれに大きな疑惑を生ぜしめるものである。
頸部の索状痕、体背面の死斑、左側腹部、左右大腿部の線状擦過傷、後頭部裂傷などがこれである。
しかし、問題はこれだけではない。この他に、冒頭に掲げた通り、頸部及び足首に巻かれた木綿細引の使用状況、使用目的並びに出所と、これに関する自白との矛盾、死体及び死体埋没現場に遺留されたタオル、手拭い、荒縄、玉石、棍棒、ビニール風呂敷、ビニール片などの使用方法、使用目的、出所と自白の関係、四本杉現場が果たして殺害現場であり得るかなど、まだまだ数多くの問題が残されているのであるが、時間の関係もあり、またこれらのうち、ビニール風呂敷について福地弁護人が、玉石と残土については藤田弁護人がそれぞれ後に述べることであり、また木綿細引については先の更新弁論において中田弁護人が、タオル、手拭い、荒縄、ビニール片などについては橋本が、それぞれ詳しく意見を述べているので、これらについては全てそれらを援用し、ここではこれ以上触れないこととし、最後に一言、死体埋没現場付近の地下足袋問題に触れておきたい。
被告人の六月二十五日付警察官調書第十六項をみると、取調官である青木一夫警部と被告人との間に、次のような問答が試みられている。
問「君はシャベルを捨ててからか、その前にか、その他捨てたものはないか」
答「ありません」
さらに六月二十八日付警察官調書第二項においても、青木警部と被告人との間に、
「私は五月一日の夜、善枝さんを埋めた後、何か捨てたものはないかということですが、何も捨てたものはありません」
問「地下足袋を捨てたことはないか」
答「ありません」
との問答が試みられ、六月二十九日付警察官調書第二十六項でも同様である。
これは言うまでもなく、捜査当局が当時、死体埋没現場及びスコップ遺棄現場付近に本件と何らかの関係があると思われる地下足袋を発見したからに他ならない。
このことは当審第六回、第七回公判の青木一夫証言、第十一回公判の諏訪部正司証言などにより裏付けられている。第六回公判において、青木一夫証人は次のように述べている。
問「捜査資料として、死体の発見された近くから、地下足袋、または地下足袋の足跡のようなものが採取されたことはないか」
答「地下足袋が発見されたように記憶しております」
問「それは片方だけの分か、一足か」
答「一足のように思います」
問「左右揃っていたのか」
答「そう思います」
問「その地下足袋が発見されたのは、およそいつ頃か」
答「私が特別捜査本部に行ってから数日過ぎていたように思います」
(二)被告人は終始一貫、五月一日のは半長靴を履いていたと述べ、地下足袋を履いていたことを否定している。それにも関わらず、死体埋没現場付近に地下足袋が遺棄されており、捜査当局がこれに重大な関心を払ったことは重要である。
発見された地下足袋がどのようなものであり、捜査当局がそれについて如何なる点から関心を払ったのか、如何なる点から本件と関係があると思われたのか、これらは未だまったく不明瞭であり、今後とも一層の究明が必要とされよう。
*
橋本弁護人の弁論は以上である。次回は、木村弁護人による「逆吊りはありえない」という弁論の引用に入る。
*
暇つぶしに、写真右側真ん中「アシモフ選集:窒素の世界」を調べてみたりする。売り切れや在庫なしが多いようである。が、やがて同じ本がネットで見つかる。
た、た、高いじゃないか、素晴らしい!小踊りながら初版かどうかを確認しようとすると・・・
ガーン!そこには蔵書印が押されていた・・・。書込みや線引き、蔵書印が押してある場合、その古本の価値は著しく下がるのである。そして期待した初版ではなく三刷であった・・・。卑しい心の持ち主にはやはり天罰が下るのだなと涙し、まてよ、この五冊はまとめて棚に並んでいたということは、残りのアシモフ本もまさか蔵書印が・・・。なんだか不吉な予感がするが、本日は意気消沈し寝床に入る。