【狭山事件公判調書第二審4028丁〜】
「強姦・殺害・死体処理に関する自白の虚偽」⑫
弁護人:橋本紀徳
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七、スカートはどうして破れたか
(一) 被害者のスカートが破れていることは、大野喜平作成の五月四日付実況見分調書の「スカートの後方裂け目から六糎のところより、二十糎バンド際が破れていて、そのため垂れ下った布の長さは八十四糎で全面的に泥がついて居り、下部が著しい。」との記載(同調書第三項死体発掘の状況)及び同調添付写真第四十二号により明瞭である。
スカートはいつどうして破れたのか。
被告人はこれを芋穴へ死体を逆吊りする際に破れたものだと説明している。
七月五日付の検察官調書第三項に「スカートが破れているのは、芋穴から引き上げる時、善枝ちゃんの足が穴から外へ出て体を引き出す時にスカートを掴んで引張った様な気がするので、その時破れたと思います」 七月三日付警察官調書第三項に「破けたという音は気がつかなかったが、もし破けたとすれば穴ぐらへ入れる時か出す時と思います」と述べているのがそれである。
(二) みられるとおり、いずれの供述も、芋穴への死体の逆吊りが前提とされている。したがって、逆吊りがあり得ないとすれば、たちまちこれらの供述はその土台を奪われ、崩れ去るものであるが、たとえ逆吊りがあり得たとしても、その際に破れたとする右の供述の信憑性は疑わしい。
第一に、七月三日付の警察官調書では、スカートの破れた時期を芋穴への吊下げ引上げの際と述べているのに対し、七月五日付の検察官調書では死体を引上げる際と、破れた時期を引上げの時にのみ限定しており、明らかに両調書に食い違いがあるからである。
警察官調書より検察官調書、日付の古い調書より新しい調書が、行為の日時が特定され、行為の内容が限定され、客観的事実により合致するかの如く改められる。これは本件の自白調書に一貫して見られるパターンであるが、このことは記憶が新たになり、より真実が吐露されたことを意味するのではなく、客観的事実と自白の矛盾に気づいた捜査官、特に検察官が、この矛盾を取り繕うとして、自白を誘導する結果生じた現象である。
スカートの破れについても、より日付の古い警察官調書では曖昧な供述に終始するのに対し、より日付の新しい検察官調書で多少これが明確にされるのがこの一例である。
第二に、たとえ引上げる際に破れたものであるとしても、吊り下ろす際と同様にスカートの破れたことにより死体は芋穴の底に落ち込んでしまうに違いないということである。
仮に、死体はすでに芋穴より半ば引き出され、芋穴の底へは墜落し得ないような状況にあって、スカートが引っ張られたのだとしても、重量のかかっている死体であるからスカートは破れるよりは、すっぽりと外れてしまうのではないだろうか。
すでに線状擦過傷の成因についての意見陳述の際に述べたところであるが、死体の吊り下げ引上げに関する自白はあまりにも杜撰であり不明なところが多い。
スカートの破れについてもまた同様であり、ここにも解明されなければならない問題が潜(ひそ)んでいるように思われる。
(続く)
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○先日亡くなられた石川一雄氏にかわり、残された奥さんが第四次再審請求を行なうという情報を知り、泣寝入りなどせぬという強靭な意思を感じ、まずは一安心する。
第四次再審請求では、石川さんの自宅で見つかり被害者のものとされた万年筆のインクが、被害者が使っていたものと成分が違うことを示す鑑定書などが新証拠として提出された。
2013年に被害者のインク瓶が証拠開示され、弁護団は50年目にして写真撮影することができた。この写真をもとにパイロット(社)に問い合わせ、被害者の使っていたインクが従来はその色からライトブルーと呼ばれていたが、ジェットブルーという商品名のインクであることが判明し、弁護団はさらに当時のジェットブルーインクを入手した。
下山鑑定はこれら当時のジェットブルーとブルーブラックのインクを使って実験を行ない、ブルーブラックインクに微量でもジェットブルーインクが混じっていれば、当時の科学警察研究所が行なったペーパークロマトグラフィー検査で分離した成分が現われることを確認した。そして、事件当時、石川さんの家から発見された万年筆のインクと被害者のインク(家にあったインク瓶や書き残した日記文字のインク)を検査した科学警察研究所の荏原鑑定を検証し、発見万年筆には被害者が事件当日まで使用していたジェットブルーインクが入っていなかったことを指摘した。
発見された万年筆に被害者のインクが入っていない、すなわち被害者の万年筆ではないことを科学的に明らかにしたのだが、老生の記憶によれば、確かこの万年筆は発見されたのち、指紋検出検査はされていなかった筈だ(そもそも鴨居で見つかった万年筆を捜査員が石川氏の兄:六造氏に素手で取らせているのだ)。
万年筆から石川氏の指紋が検出されたならば、これは捜査当局にとっては犯人特定の決定打となるわけだが何故かその検出作業を避けていたのはいったいどうしてだろうか。
(と、ここまで書いておきながら、万年筆の指紋検出作業が行なわれなかったかどうかの記憶があやふやになり不安になる)
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○さてと、拾った古本の価値をあさましくも調べてみる。
小学校の頃、これと同じ本を友だちから借り、晩飯を食べながら読んだ結果、ご飯つぶや醤油を付着させてしまい、えらく怒られた記憶があるが・・・・・・この本は美品である。
おっ高い、高いぞ。よし!