アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1307

狭山事件公判調書第二審4026丁〜】

「強姦・殺害・死体処理に関する自白の虚偽」⑪

                                                                弁護人:橋本紀徳

                                            *

                   六、"胃内容物と殺害時刻"

(六)  ともあれ、死体の胃内容物からして私たちは、被害者は意外に早く殺害されたと考えるものである。こう考えることにより、先ほど述べた背面の死斑についても、またよく説明出来るのである。

   原判決や検察官は出会い時刻や殺害時刻を、意識して遅くさせようと努力している。出会い時刻が三時五十分という原判決の認定がそれであるが、元々三時五十分と認定する根拠を見出すことは困難なことである。

   たとえ善枝の下校時刻を三時半とし、途中、郵便局に立ち寄ったものとしても、山学校まで二十分を要するかどうか疑わしいのである。

   出会い時刻、殺害時刻を繰り下げなければ、自白で述べる被告人の行動と中田方へ脅迫状の投げ込まれた時刻・・・午后七時三十分との開きが大きすぎる。佐々木弁護人が述べる空白時間があまりにも多くなりすぎるのである。

  これが、原判決や検察官が出会い時刻を繰り下げ殺害時刻を曖昧にする理由である。

  (七)  しかし、死亡推定時期と下校時刻との矛盾は、私たちに、もっと別の根本的に異なる解釈を与える余地もある。

   佐々木弁護人が述べる五月二日殺害説などがその一例である。

   被害者の胃内容物からは、五月一日の昼食・・・カレーライスには含まれていないトマトが検出されている(五十嵐鑑定書第二章其の二の(27)、同第十五号写真)。

   前記の中根証人はカレーライスの材料として、玉ねぎ・人参・肉・じゃがいも・福神漬けを挙げているが、トマトには触れていない。他方、胃内容物にカレーライスの黄色の色調が発見されていない。

   これは、被害者がカレーライスの昼食の他に、これとは別の機会に別の内容の食事をとった疑いを生ぜしめるものである。

   五十嵐鑑定人によると、被害者の死後経過日数は、ほぼ二、三日と推定されており、仮に五月二日に死亡したとしても死体の全所見からする死後経過時間と矛盾しない(同鑑定書主文六の(3))。

   胃内容物と殺害時刻、死後経過時間については、まだまだ未確定の要素が多い。

   私たちは。ここでもまたいくつかの疑問を見出し、これを疑問として残さざるを得ないのである。

   これらの点は、これからの審理において解明されなければならない。

(続く)

                                            *

○ところで老生が狭山事件を知ったのは20年以上前である。当時住んでいた都内の、とある古本屋で手に入れた狭山事件の関連本がきっかけとなり、それまで聞いたことのなかった部落差別や冤罪という領域へ足を踏み入れた。

   国内に点在する特定の地域・地区出身者の就職を拒む大企業の存在や、同じ理由での結婚の破談話、また、この差別によって虐げられた人々を救おうとの趣旨で施工された同和対策事業に便乗し、不正に金を得るためだけに結成された、いわゆるエセ同和団体の存在など、たまたま買った一冊の古本から、日本にはびこるダークな現実社会の実像に迫ることになるとは思いもよらなかった・・・。

   未解決のまま時効を迎えた事件の一つに「グリコ・森永事件」があるが、事件当時、捜査当局は犯人検挙に向け、真っ先に被差別部落とされる地域にローラー作戦を行ない、部落解放同盟より猛烈な抗議を受けたと聞く。これは一歩間違えれば、狭山事件同様、この差別捜査により冤罪被害者が生み出される可能性があったわけだが、その意味では事件が未解決で終えたという事実は、その捜査手法に賛否両論はあるが少なくとも偏見による犯人特定という事態には至らず、よくぞ当局は暴走せず未解決・時効に甘んじたなと感ずるのである。

   まあそれにしても、身の丈に合わぬ狭山事件公判調書を読むという行為は、これはやはり老生にとって苦行と言ってよく、脳は疲れ、栄養を欲してくる。 

  では脳に何を与えれば疲労回復するかといえば、老生の場合、趣味の古本たちと戯れることである。

   前回に引き続き、拾い物の古本を取調べてみると、なんと、こんな雑本に驚きの値を付けている古書店が見つかる。

     拾った古本と同じものが八千円!・・・にわかには信じられないが、捨てた方、及び拾った俺に祝杯をあげる。