【狭山事件公判調書第二審4022丁〜】
「強姦・殺害・死体処理に関する自白の虚偽」⑨
弁護人:橋本紀徳
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五、"後頭部の創傷は何を語るか"
(二) 後頭部裂傷について、上田鑑定人が次のように述べていることも重大である。
「しかもこの場合には後頭部裂傷により、かなりの出血があると考えるのが常道で、後頭部損傷の周囲皮下には凝血が多量に附着しておるべきはずである」(上田鑑定書前同項)。
「鬱血(うっけつ)が起こっていても後頭部が体下方になっている限りにおいて、かなりの外出血が考えられよう」(同書主文(五))。
ところが、自白はこの多量に見られるはずの出血について何も触れていない。六月二十五日付の警察官調書第五項などによると、被告人は殺害をした後、しばらくして果たして被害者が死亡したものかどうか、わざわざ死体の傍(そば)までゆき、確かめたと述べているのであるが、出血については何も触れていないのである。
その後で死体を抱きかかえて芋穴の傍まで運んだというのであるが、その際も出血については触れていない。
また、被害者の着衣、被告人の着衣、目隠し用のタオルなど、いずれにも血液が附着した痕跡は認められない。自白に述べるような方法で死体を抱きかかえて運べば、被告人の右手、右手首、右袖口などに血痕が附着しそうなものであるが、これらのものに血痕が附着したとの供述もなければ、それに見合う物証もないのである。
四本杉、芋穴からも血痕は発見されていない。
一体、出血はどこにゆき、血痕はどこに消滅してしまったのか、まことに奇怪なことと言わなければならない。この点に関する自白についても、その信憑性はまことに疑わしい限りである。
(三) 出血が少ない、あるいは見られないということは、この裂傷が死後のものであるかも知れぬとの疑いを呼びおこす。
五十嵐鑑定人がこの傷を生前のものと鑑定していることは同人の鑑定書から明らかなことであるが、上田鑑定人は「私は明確な判断を下すことはできないが、創傷の皮下に凝血があり、生前の傷であるという点にかなりの疑問を抱くものである」と述べていることに注目すべきである(上田鑑定書(E)項⑧)。
果たして、後頭部裂傷は生前の傷かどうか、大きな疑いが残るものと言えよう。
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○被害者は後頭部に出血をともなうほどの裂傷を負っていたにも関わらず、殺害現場や芋穴、そして被告が着用していた衣服から血痕反応が検出されなかったという事実は、この事件における謎の一つである。
これについては現在も、検察官は雑木林の血痕検査報告書について存在しないとしているが、被害者の死体の後頭部には傷があり、殺害現場の裏付けのために雑木林で当然、血痕検査が行なわれたと考えられる。検察官の言う「血痕検査報告書はない」では済まされずこれでは殺害現場という核心の点を裏付ける客観的な証拠が何もなく、むしろ、自白と矛盾する事実があるということになる。
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○老生のような容量の少ない脳では、公判調書のような堅い書物は少しずつ読まねば理解できず、本日ここへ引用した分量ですら我が脳が消費したエネルギーは相当なものになる。
疲れた脳には栄養を与えねばならぬと、趣味で集めた古本の最新査定額を探る・・・・・・。この行為が今一番楽しく、脳も激しく震えるのがわかる。
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