アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1292

狭山事件公判調書第二審3990丁〜】

         弁論要旨(昭和四十八年十二月更新弁論)

「自白維持と部落差別の問題」④  弁護人=青木 英五郎

                                            *

   部落外の人である関巡査部長と被告との間に出来たこの信頼関係が、「牢固として、抜くことができないほどの強靭な、絶対的な」ものであったことを、われわれは知らなければならない。わたくしが弁護人になったのは、昭和四十四年のことであって、その当時何回か被告に面会にいっているが、彼がいまだに関巡査部長に対して信頼感を抱いているのを知って、唖然としたのである。わたくし以外の弁護人も同じような印象を受けている。たとえば被告自身は意識していないにしても、それはまさに、ひとたび信じた人と、地獄の果てまでも共に歩こうとするような心情であろう。

   前に述べた被告の社会人としての知識の欠落、つまりこの場合は、勾留されている被告人にとって、自分の権利を守ることが出来るのは弁護人だけである、という認識の欠除(原文ママ)と、後に述べる、警察官のほうが弁護士よりも信用できると思い込んでしまった恐るべき錯誤、そして、野球を媒介とする関巡査部長に対する信頼関係、これらの事柄を理解することによって、初めて被告の当審における供述が、そのまま真実を物語っているものであることを理解できるのである。

   被告が関巡査部長に"善枝さん殺し"の三人共犯を自供する以前に、彼がどのような錯誤に陥っていたかを知るために、中田弁護人に対する彼の応答を引用してみる(当審二回公判)。

中田弁護人=「あなた自身、自白する前に私達に対して何か特別の感情を持ったことがありますか」

被告人=「あります。あのとき狭山でね、六月の十一日頃だと思うんだがね、中田先生に十八日に裁判があると言われてね、そのつもりでいたんだね。そうしたら、十八日になっても裁判がなかったからね、だから弁護士さんは嘘つきだと俺が長谷部さん(警視)に言ったわけですね。長谷部さんは弁護士とわれわれは違うと、嘘を言ったらわれわれはすぐ首になると、だから、今度は長谷部さんなんかを信用したです」

   "六月十八日に行なわれるはずであった浦和地裁の勾留理由開示公判……被告人はその公判で、彼がジョンソン基地でした三人共犯の窃盗を裁判官に自供するつもりであった……の取消を、彼は弁護士が嘘をついたものと誤解した。警察官は、被告の弁護士に対する不信を利用して、"善枝さん殺し"の自白をすれば十年で出してやる、という約束を彼に信じ込ませることになるのである"

中田弁護人=「弁護士と違って、俺たちは嘘をつかないと」

被告人=「嘘をつくと首になってしまうと、だから十年で出してやると言えば十年で出してやる、間違いないと言いました」

中田弁護人=「あなたは、本当に十年で出してくれるのかということを何度か確かめたわけですね」

被告人=「ええ、そうです。浦和へ行くときも聞いたです」

   "十年という計算の根拠は、被告の近所の人が自動車一台を盗んで懲役八年になった、自分は九つくらい悪いことをしているから十年ならいいと思った、というのである"

中田弁護人=「そうすると、鶏を盗んだり茅を盗んだりしたことがたくさんあって、で近所の人の例からみると十年ぐらい入っても当たり前だと考えたわけですか」

被告人=「ええ、そうです」

中田弁護人=「警察の人は、あなたに窃盗や何かが九件もあれば、十年ぐらい入ってなければならないというようなことは」

被告人=「言ったです。それは大宮のね眼鏡かけた、ちょっと名前はわからないんだけどもね、主任さんと言ってましたね、そのときに長谷部さんと諏訪部さんのときに言ったです」

(続く)