アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1285

狭山事件公判調書第二審3977丁〜】

                弁論要旨(昭和四十八年十二月更新弁論)

                                                     昭和四十八年十二月八日

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                                   狭山事件の見方

                                                            弁護人=佐々木哲蔵

(犯行の時刻、死亡推定時刻に関する疑問三点についての続き)

   第二点は、石川君は前記の如く、殺した時刻を五月一日午後四時すぎ頃と言っているが、これは恐らく、死体解剖の五十嵐鑑定中の「最後の食事をとった時から死亡時までに最短三時間を経過する」旨ならびに胃内容物に馬鈴薯、玉ネギ、人参等があったことの鑑定結果と、善枝ちゃんが五月一日の昼、学校でライスカレーを食べたことなどから、このライスカレーを最後の食事と推定して警察が誘導したものと思われる。しかしながら、右の推定は早計であり不正確である。何故ならば、

(1)最終食事が五月一日昼食べたライスカレーであるということは、五十嵐鑑定は何ら確定していないし、むしろ上田鑑定からはその点が疑問視されるのである。すなわち、上田鑑定によれば「胃内容の色調が、鑑定資料(イ:五十嵐鑑定)の中には記述されていないが、人参、馬鈴薯、玉ねぎ等を含む場合、普通カレーライスがすぐ考えられるが、もしカレーライスを食べていた場合には、これくらいの消化程度では、カレー粉の黄色色調が胃内容に残っているべきである」とある。そして一方、五十嵐鑑定には黄色の色調は残存物として記載されていない。思うに、この黄色の色調は、胃内容の残存物としてはそれ自体一つの特徴的なものであり、場合によっては捜査の端緒ともなり得るものと思われる。このような性質の黄色の色調が、鑑定書に記載されていないのは、胃内容物には、この黄色色調がなかったものとみてよいと思われる。

   しかも上田鑑定では、「残存している大約二五〇ccの分量は、一回の食事内容としてはかなり多く残っている」ものとしている。これは仮に昼、ライスカレーを食べたとしても、そのあとにまた何らかの食事をしたことを意味する。しかも五十嵐鑑定では、胃の内容残存物には、トマトがある。善枝ちゃんが五月一日の朝トマトを食べてないし、ライスカレーにはトマトがのっていないということになれば、五月一日昼ライスカレーを食べたとしても、それは○○○(印字不鮮明により画像参照)

の最終食事とは断定し得ない。むしろ、その後トマトなどを含む、その後の食事をしたものとみられるのである。

(2)さらに五十嵐鑑定によれば、「本屍の死後経過日数はほぼ二、三日くらいと一応推定する」とある。右鑑定書によれば死亡推定時刻は、五月一日に限らず五月二日でもよいのである。

(3)さらに、死亡時刻は、前記五十嵐鑑定によれば最初食事をとってから三時間以上すなわち五時間後でもよいのである。

   してみれば、善枝ちゃんは五月一日の晩から五月二日の朝までの間に殺されたにしても、前記鑑定書には何ら矛盾しないことになる。果たして、然(しか)らば、五月一日午後四時すぎ頃殺したという石川君の自白は、何ら的確な裏付けのない砂上の楼閣に過ぎないことになる。

(続く)

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○なるほど、まさになるほどである。酒に溺れつつ公判調書を眺める老生は、意見陳述をされている佐々木哲蔵弁護人の洞察力には感服する次第である。そしてここからは老生の推測であるが、狭山事件に関与した弁護人らは公(おおやけ)にされていない情報をある程度掴んでおり(職業上、それは確固たる根拠を持つ)、それらを切り札とし意見陳述に臨んでいると、こう思えるのであるが・・・どうであろうか。