【狭山事件第二審公判調書3948丁〜】
「第七十三回公判調書」
昭和四十九年二月七日付検察官の証拠調請求についての主任弁護人の求釈明および検察官の釈明。
(前回より続く)
八、主任弁護人=右請求書の番号10の書面について
検察官はその書面によって被害者中田善枝が当日、旭町ガード下を通過したと主張されるのかどうか、もし主張されないとするなら、如何なる意味でこれを法廷に顕出しようとされるのかを明らかにされたい。
検察官=請求書の番号10の中島いくの調書によって中田善枝が旭町ガード下にいたと思われる事実を立証しようとするものである。
そこから本件の出会い地点まで中田善枝がどういう経路を通って行ったかということは必ずしも明らかではないが、その旭町のガード下にいた中田善枝が出会い地点であるX型十字路へ何らかの経路を経て行っているという主張の前提となる立証である。
九、主任弁護人=右請求書の番号12の書面について
この書面の根拠となった資料すなわち、石田一義方家族・従業員・交友関係者の一人一人について、筆跡・血液型・アリバイなどを調べられた資料を検察官はお持ちなのかどうかを明らかにされたい。
検察官=請求書の番号12の書面に集約されて記載されている、個々の事項を明らかにする資料は存在する。ただし、現在検察官の手元にはないので、どういう資料がどれだけあるということを逐一具体的に述べるだけの用意はない。
十、主任弁護人=右請求書の番号20の書面について
検察官は、この書面についての立証事項欄に記載されている昭和三十八年四月二十六日、同月二十七日、同年五月二日、同月三日、同月四日および同月八日における被告人の行動をどのように主張されるのかを明らかにされたい。
検察官=請求書の番号20の書面について検察官は同書面についての立証事項欄記載の日の頃、被告人が狭山市内にいたという主張をするのであって、従ってその頃、学徒総合体育大会狭山市予選会の模様を認識し得る状況にあったということである。本書面はその主張の前提となる事項の立証を目的とするものである。
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○ここからは証拠調請求およびこれに対する求釈明等に関する裁判長および訴訟関係人の発言を引用しよう。
[第一] 昭和四十九年二月七日付および同年同月十四日付検察官の証拠調請求について。
裁判長=「昭和四十九年二月七日付検察官の証拠調請求書中、番号1.2.3.および5の各書面についての主任弁護人の求釈明(前記の求釈明)は、その点の釈明があれば刑事訴訟法第三二三条各号のいずれかによって証拠能力があるかも知れないと考えられるから釈明を求められる趣旨ですか、あるいは、当該書面について、同法第三二六条の同意をするかどうかを決する上に必要だとお考えなのですか」
主任弁護人=「その両方について必要と考えております。要は、こんな書面が作成された経過や根拠などを伺いたいのです」
裁判長=「率直な感じを申しますと、検察官の証拠調請求書の『立証事項』 は、総じて立証趣旨というよりは、むしろ、書証の内容の要約のような感じであって、本来、内容がこれだけさらけ出されるような形での立証趣旨は適当でないのではないかと裁判所は感じています。立証趣旨は、もう少し簡潔であるべきだと思うわけです」
主任弁護人=「私も裁判所のご指摘のとおりであると思います。控訴審が接ぎ木であるとしても、あまり公正な態度ではないと思うわけですが、それは兎も角として、それだけに一層なにを立証しようと考えておられるのか分からないから先ほどのような釈明を求めたわけです。
検察官の証拠調請求については、弁護人側は、先ほどの求釈明に対する検察官の釈明を俟(ま)って意見を述べたいと思います。従って本日の段階では、検察官の本日付証拠調請求に対する意見をも含めて、すべて意見は留保します。
本日付検察官の証拠調請求書には、立証事項として、取調べを求める書面の中味をかなり引用した記載がなされておりますが、検察官が予(あらかじ)め私に告げられたところによれば、これは、これらの書面の中味・意義を証拠とする趣旨ではなく、例えば、昭和三十八年六月五日に司法警察員が内田幸吉を取調べてこういう調書が作成されたという事実を立証したいのだということですが、もしそうであるとすれば、先ほど裁判長の御注意もあったことだし、これは一旦撤回されて、改めて立証趣旨を明らかにした、そして、中味をあまり引用しない証拠調請求をしていただきたいと思います。
もちろんそういう立証事項にしたとしても弁護人がそれらの書面を証拠とすることに同意するという趣旨ではありません」
(続く)