アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1272

(写真は事件当時の内田証人宅。石川一雄被告が被害者宅へ脅迫状を届けに行く途中、その所在地を尋ねるため立ち寄ったとされている。被害者の自転車を押しながら中田栄作の家はどこですかと、目的の家から四軒ほどしか離れていない内田宅に赴くとはにわかには考えられない。すでに殺人を犯しその被害者の自転車を押しながら、しかもこののち届ける脅迫状を携え、もっとも見られてはいけない素顔をさらすとは、犯罪者であれば避けるべき行動のイロハのイである。したがって常識的、合理的に考えると、これは捜査当局の描いた筋書きに沿って強要された石川被告人の虚偽の自白と言えよう)

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狭山事件公判調書第二審3916丁〜】             

                             「第七十回公判調書」

  別紙一  「弁護人  宇津泰親の意見」(前回より続く)

  つまり私は脅迫状をそこに届けたことがあまりにも大胆すぎるというようなことを言っているのではありません。言いたいのは、そのような道筋において脅迫状が中田方に届けられたという筋書きは虚偽架空のものではないかということであります。またそれに関連付けて、私が指摘せざるを得ないのは、中田方へ行く少し前に内田幸吉方に寄ったとされておりますが、この内田幸吉の証言、これが非常に奇々怪々で、裁判所に出頭して証言する冒頭に、内田幸吉証人に「石川君を覚えているか」と聞きましたら、怪訝な顔をして「知らぬ」と言った。これは象徴的なことですが、この内田証人はもっともっと吟味しなければならない証人であります。おおよそ以上のことでも本件を従来の自白調書の筋書きによって考えていくことは許されなくなった、我々も裁判所も、もう一度深く検討し直さなければならない時期に来ているんだということを言いたいわけであります。検討し直さなければならない問題は幾つかあります。その中でも、例えば脅迫状は妹のノートを引き破って書いた、これは自白調書の内容として動いていない。しかし妹のノートを破って書いたとすれば恐らく妹のいないところで破って書いたでしょう。そして彼が逮捕されるまで妹は知らなかった、そのことは何も聞かされていないということにならざるを得ないでしょう。あの家にあるノートというノートは、彼が逮捕、勾留されて後の家宅捜索で全部押収されたが、その中に、二、三枚引き破ったというノートは一冊もありませんでした。しかもそれらのノートは妹が学校で使用中のノートであります。そういう問題もその他の問題も、今少しずつ判りかけてきたことと合わせて考えれば、新しい意味合いを持ってくるものと考えるものです。

   本件の捜査経過というものを当時の全体的な状況と照らして、平面的にでなく、出来るだけ立体的に、科学的な分析を加えて、そこからさらに検討し直さなければならないと思います。筆跡鑑定にしても、その筆跡鑑定とはなんぞやということを真剣に考えなければなりません。それに必要な材料は我々のほうから裁判所へ出してあります。戸谷鑑定がそれであります。筆跡を取り巻く付随事情と申しましょうか、そういった問題、それらがそれぞれの意味合いを持って再検討されなければならないということを言いたいのであります。

   詳細は後に書面で提出しますが、私の申し上げたいことの骨子に絞って述べました。                                  以上

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○事情により第七十一回・七十二回公判調書の引用は省き、第七十三回公判調書へ進む。

    さて、狭山事件はご承知のとおり警察当局による捜査の質が低いがため身代金受渡し場所(佐野屋)での犯人取り逃がしに始まり、さらには誰でもええから逮捕せよとばかりに世間知らずの青年を捕え、その後に迎える裁判を維持・補強するため証拠類の取捨選択および捏造を行なってきたことは皆が知るところである。それゆえ、この事件に無関係な善意の第三者がその捜査記録に目を通して感じるのは「非常に疑わしい」という感情である。以下はその「非常に疑わしい」と思われた方の、衆議院での質問である。

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狭山事件とルミノール反応検査に関する質問主意書
                     平成四年十二月四日提出  質問第一二号


 いわゆる狭山事件、一九六三年、埼玉県狭山市でおきた女子高校生誘拐殺害事件の捜査について、不明と思われる点があるので質問する。

一 この事件では、五月三日に身代金を取りにきた犯人を警察が取り逃がすという失態を演じたあと、この女子高校生は遺体となって発見され、大きな社会問題、政治問題となった事件である。
  この事件の捜査過程で、「犯行現場」のルミノール反応検査については、衆議院法務委員会でも何回かとりあげられ、いったんは、「ルミノール反応検査報告書はあります」との法務省刑事局長の答弁もあった(一九八五年二月二十二日)が、その後、それを訂正する答弁がなされるというじつに不可解な経緯を経ている。
  今般の佐川問題においても、検察の捜査に不可解、不明瞭な部分があることに国民が不信を抱いていることが問題のひとつであると思われるが、狭山事件におけるこの当然とも言える殺害現場のルミノール反応検査について、また、その報告書の存否について説明されたい。
二 狭山事件の再審弁護団によれば、事件当時、埼玉県警の鑑識課員である松田勝氏は、一九八五年十月十九日の弁護団との面接において、「特捜本部の指示で」「現場のルミノール反応検査をおこなった」「それは書類として全部報告してあります」と述べている。当然、犯行現場のルミノール検査報告書があると考えられるが、これについてどう説明をされるのか伺いたい。
三 もし、ルミノール反応検査が行われていないために報告書が不存在だということになる場合、狭山事件の捜査で犯行現場は何によって特定することができたのか。
四 このような裁判上も重大な争点となっている問題について、訴訟当事者の防御権を保証するためにも、無辜の救済と真実発見のために、公益の代表者たる検察官は、再審請求手続きに協力する義務があり、そのひとつとして、開示請求のあった証拠についてはすみやかにこれを開示する義務があると考えるがどうか。
五 東京高検は、狭山事件で収集された証拠の目録があることを認めており、ルミノール反応検査報告書の存否を明確にするためにも、弁護人に対して、証拠目録を開示するべきであると考えるが、どうか。
六 証拠目録については、いわゆる免田事件(一九八三年七月二十八日再審無罪確定)、梅田事件(一九八六年八月二十七日再審無罪確定)などで、証拠の目録が開示されている。なぜ狭山事件では開示しないのか理由を明らかにされたい。

 右質問する。

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平成五年一月二十二日受領
答弁第一二号

  内閣衆質一二五第一二号
    平成五年一月二十二日


         衆議院議長 櫻内義雄 殿

衆議院議員松本(注)君提出狭山事件とルミノール反応検査に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

 




衆議院議員松本(注)君提出狭山事件とルミノール反応検査に関する質問に対する答弁書



一及び二について

 御指摘の殺害現場のルミノール反応検査に関する報告書はないものと承知している。なお、昭和六十年二月二十二日の衆議院法務委員会において行ったルミノール反応検査報告書がある旨の答弁は、殺害現場及び死体隠匿現場を含む広い意味での犯行現場について、ルミノール反応検査をした検査結果があるという趣旨で述べたものであると承知している。
 御指摘の狭山事件については、被害者の遺体が一時的に隠匿されていた場所においてルミノール反応検査が行われ、その結果が陰性であったことを記載した書類は存在するが、その他の場所については、ルミノール反応検査が行われたことを記す書類はなく、ルミノール反応検査が実際に行われたか否かについては不明であると承知している。

三について

 前記事件における犯行現場の特定については、自白の信用性の判断にも関連しており、現在、東京高等裁判所に再審請求事件が係属中であるので、答弁は差し控えたい。

四から六までについて

前記事件については、現在、東京高等裁判所に再審請求事件が係属中であるので、証拠の目録を含む証拠の開示を行うか否かに関しては、答弁を差し控えたい。