(五三〇丁と思われる写真)
(五三一丁と思われる写真)
(五三一丁と思われる写真を拡大したもの)
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【狭山事件公判調書第二審3916丁〜】
「第七十回公判調書」
別紙一 「弁護人 宇津泰親の意見」(前回より続く)
第三に、従来あまり問題とされていなかったことですが、記録でいうと五三〇丁、五三一丁に、これは被害者中田宅の事件当時の表玄関硝子戸の様子の写真があります。五三〇丁の写真は亡くなった中田登美恵さんが玄関先を指している写真ですが、この写真でも明白ですが、五三一丁の写真は、室内から撮った写真ですが、それを見ますと、下から二番目の硝子は全部素通しであります。外の景色は丸見えです。こういう写真を見ながら、自白調書に現われた、脅迫状を届けたという筋書きをもう一度想い起こしてみる必要があると思うのです。自白によれば内田幸吉方でまず中田さんの家を聞いて、自転車をひきながら門口から入って行く、そして、五三一丁に物置が写っておりますが、その物置の小型四輪トラックの脇にそっと置いてとなっておりますが、そっと置いてから脅迫状を玄関の硝子戸に差し込む、で、その差し込む際に、中に善枝さんの身分証明書が入っているかどうか、わざわざ確認するという行動まである。そういう行動をもう一度想い起こす必要があります。その時刻はあの付近農家の夕餉(ゆうげ)時であります。当時の家族というのはお父さん、それから健治さん、姉、弟もおられる。脅迫状がその硝子戸に差し込まれたのが何時何分なのかということは必ずしも明確ではないのでありますが、また、健治さんが善枝さんが帰って来ないので学校辺りへ行って帰って来る間に差し込まれたにしても、帰って来てから夕御飯をとるまでに差し込まれたにしても、つまり中田健治さんをマイナスするにしてもしないにしても、何人かの家族がこの屋敷に住んでおるわけです。そうしますと、まず門口から自転車を、門口からといっても屋敷内は舗装されてはいないのですから、新品の自転車といっても、相当チェーンなどがガタガタという音がするわけです。そっと入って行くことにはまず不可能です物置に自転車を格納するについても、そっと置いたとは言っても音を発しないで置くことはまず不可能です。今度はそこから恐らく真っ直ぐに玄関先に歩いていったと思われるわけですが、そうすると五三一丁の写真、つまり上がり口というのですが、そこに立つなり坐るなり誰かがいたとすれば、この素通しの硝子から見通せるわけであります。五三〇丁の写真を見れば、腰から下はともかく、それより上は丸見えです。近づくプロセスを見ることができるならば、つま先まで見えるよく見通せる状態であります。差し込んであった脅迫状は二枚の硝子戸の真ん中の合わせのところに入っていたとすれば、そこに差し込むためには、向かって左の戸袋に隠れたままで差し込むことは恐らく困難です。そして差し込む前に身分証明書が入っているかどうか確認したということになりますと、そういう夕餉時で家族が皆集まる時刻に、あの五月のその時刻はまだまだ明るいのですから、家族から容易に発見されうる状況であります。そこでそれだけの行動が、自白調書のような行動がなし得るだろうか。今後の立証の中で私どもは現場検証を裁判所にお願いしたいと考えているわけですが、この中田方について、今申したような問題意識における検証をしたことは今までなかったように思いますから、そういう意識に立った検証を是非お願いしたいと考えております。(次回へ続く)