(当時の入間川駅)
【狭山事件公判調書第二審3882丁〜】
昭和四十七年九月二十八日、被告人及び弁護人より東京高等裁判所第四刑事部へ次のような文書が提出されている。
『検察官の証拠調請求に対する意見並びに事実取調請求書』
第一、検察官の昭和四十七年九月十二日付証拠調請求書に対する弁護人の意見は次のとおり。
○請求書中第二報告書7カラー写真撮影報告書は同意。その余は全て不同意。
第二、事実取調請求
一、[鑑定] 本件封筒(東京高等裁判所昭和四十一年押第一八七の一。以下同じ)の封緘部分に付着する糊の分量及び分量比について。
鑑定事項
本件封筒の封緘部分に付着するアラビアゴム、でんぷん糊の分量及び右各糊の分量の比率はどうか。
本件封筒の封緘部分にポリビニルアルコールが付着しているか。付着しているとすればその分量及びアラビアゴム、でんぷん糊との分量の比率はどうか。
○本件封筒の糊付けに関してはすでに裁判所の鑑定命令にもとづき大沢、三木鑑定書(昭和四十七年五月三十一日付)が作成されているが、誠に遺憾なことには、右鑑定書においては、せっかくの鑑定事項にも関わらず、予めつけられていた糊が存在するか否かについて試験、調査など特段の考察を払っていない。
予め付着している糊以外の糊を使用すれば、当然、糊の分量は増加するのであるから、糊の分量を計量することによって、この問題は解決されるのである。
前回九月十九日の公判において鑑定人:大沢教授は分量の計量は可能であると証言している。本鑑定により、本件封筒に付着する糊の量が判明すれば、他の証拠方法と相まって、本件封筒に予めつけられていた以上の分量の糊が存在するか否かが明らかとなる。
二、[書証]文書の特定
東中学関係、西中学関係、堀兼中学関係、入間中学関係、各照会請求書。
立証趣旨
○右各文書は、昭和三十八年五月一日、狭山市内の二つの中学校、"東"及び"西"中学校において、学徒総合体育大会狭山市予選会が同市四つの中学校(東、西、入間、堀兼)参加のもとに開催されたことを明らかにしている。
被告人は同年五月一日の午後、荷小屋の前を通る運動着姿の中学生を目撃しており、この中学生は右運動会参加者である。被告人がこれらの中学生を目撃し得たのはとりもなおさず、被告人がその供述のとおり荷小屋にかくれていたからであり、被告人のアリバイを立証するものである。
三、[証人]
1.狭山市狭山警察署 三沢 弘
2.埼玉県警察本部内 石川金五
3.狭山市狭山警察署内 本田 進
立証趣旨
1、証人は本件自転車より指紋の検出にあたった者であるが、検察官の開示記録によると指紋を検出し得なかったというのである。しかしなぜ検出し得ないのか、故意に指紋を拭き消す作為が加わっていたためかあるいは指紋検出方法に誤りがあったためか詳(つまび)らかではない。
本件を自白どおりとすれば、本件自転車に指紋が検出されるべきであり、検出されるのがむしろ当然と考えられる事例であるから、これらの点を明らかにすることは本件の真相解明のため是非とも必要である。
2、証人3は本件死体の首などに付着している木綿ひもの出所の捜査に関与した者である。証人2は検事手持記録中の中川えみ子の答申書(昭和三十八年六月二十七日付)の作成に関与し、証人3は一審浦和地方裁判所の現場検証の際、中川、椎名方現場の立会人であるが、本件木綿ひもの出所の捜査過程は不明であるばかりか、証人3は現場検証の際、明らかに虚偽の指示説明をしている。
右両名により、木綿ひもの出所に関する捜査過程及び不公正な捜査が行なわれたことを立証する。
*
と、ここまでが被告、弁護人による『検察官の証拠調請求に対する意見並びに事実取調請求書』である。
これに対する検察官検事による意見は下記のとおり。
*
『検察官意見』
強盗強姦殺人等 被告人 石川一雄
右被告人に対する頭書被告事件につき、昭和四十七年九月二十八日付弁護人より事実取調べ請求に対する検察官の意見は左記のとおりである。
昭和四十七年十月九日 東京高等検察庁
検察官検事 山梨一郎 印
記
第二 一 鑑定について
弁護人の求める鑑定事項は、本件封筒の封緘部分に付着するアラビアゴム、でんぷん糊、ポリビニルアルコールの各分量とその分量の比率というのであり、鑑定を求める理由としては、予め付着している糊以外の糊を使用すれば、当然糊の分量は増加するのであるから、糊の分量を計量することによって、予め付着している糊以外の糊が使用されたか判然とすると云うにあるようであるが、大沢鑑定人によっても抽象的には定量分析の可能性はあるが、試料が非常に少ないので難しく誤差が大きなものになると述べており、又、「予め付着されている糊以外の糊を使用すれば糊の分量は増加する」という点についても、一般に予めどの程度の量の糊付けがされているのか資料はないのであるから予め糊付けされた量との対比において新たな糊付けが行なわれたか否かの鑑定は困難であり、可能とは言えないと述べている。さらに一般に市販された封筒の中にはでんぷん糊、アラビアゴム、ポリビニルアルコールを混合使用された糊が予め付着されているといわれるが、その混合の割合について、元来本件封筒の製造元は判明していないので割合自体が不明なのであるから、その前提の上に立って前記の如き鑑定を行なっても意味のないこと明らかであり、いずれにしても鑑定の必要は認められない。
第二 三証人
1について
本件において、指紋の検出が出来なかったのは自転車のみに限らない。
既に脅迫状・教科書ノート・万年筆・時計・牛乳びん等についてはその報告書類は弁護人側の同意で裁判所に提出されているが、本件も右と何ら区別する格別の根拠もないのに、故意に指紋を拭き消したとか、検出方法に誤りがあったのだと主張し、証人申請をした理由は審理引きのばしを計るものとしか考えられず不要。
2、"3"について
既に中川えみ子については当審において証人尋問を行なっており、立証趣旨中「木綿ひもの出所に関する捜査過程」については当審において原正、河本仁之、将田政二、青木一夫らの取調べによって明らかであり「不公正な捜査が行なわれたこと」の点については何を意味するのか不明であるが、単なる云いがかりであると思料されいずれもその必要はない。