【狭山事件公判調書第二審3876丁〜】
証人=堀越とよ子(二十五才・主婦)
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城口弁護人=「三十八年の四月三十日、事件の一日前になりますが、あなたといつも帰る人が二年生にいたという話を聞いているんですが、ありましたか」
証人=「はい」
城口弁護人=「何という人ですか」
証人=「奥富レイ子さん」
城口弁護人=「その方が修学旅行でいなかったために、あなたと中田さんが一度だけ帰ったということはなかったですか」
証人=「・・・・・・・・・」
城口弁護人=「どうですか、ご記憶は」
証人=「忘れちゃって分からないです」
城口弁護人=「で、その道は狭山精密のほうを通って、薬研坂を越えて行くという道だったようなんですが、思い起こされませんですか」
証人=「・・・・・・・・・」
城口弁護人=「記憶にないですか」
証人=「ないです」
城口弁護人=「先ほど中田さんの通学路としては薬研坂のほうが近いかという点について、そちらのほうが近いんじゃないかという感じのお話があったようですが、中田さんの通学路については見聞していて、知っているというようなことはございますか」
証人=「ないです」
城口弁護人=「朝通って来る状態を見たことありますか」
証人=「私は反対方向を回ってたから分かりません」
城口弁護人=「中田さんが学校へ来る方向は入間川の駅を中心にして考えますと、どちらの方向からでしたか。入間川の駅に向かってということにしましょうか」
証人=「向かって右です」
城口弁護人=「あなた一人が小、中学校も同じであるので、同じ通学路を一緒に通るということもそれほど不自然ではないんですが、先ほどのお話のように少し離れているという理由のほかに、一緒に通学しなかった理由はございますか」
証人=「性格が全然違いますから」
城口弁護人=「性格が違うので日常的にもあまり合わないという意味ですね」
証人=「はい」
城口弁護人=「学校の中でもそれでは特に親しく話をするというほうではなかったですか」
証人=「はい」
城口弁護人=「全然話しないというほうですか」
証人=「全然じゃないですけど」
城口弁護人=「必要なこと以外は話さないという」
証人=「はい」
城口弁護人=「五月一日の授業のことでお聞きしますが、調理の時間がありましたね」
証人=「・・・・・・分からないですよ」
城口弁護人=「カレーライスを作ったということを言いますと思い出しますか」
証人=「・・・・・・(証人泣き出す)」
城口弁護人=「こういう所へ出たのは初めてですか」
証人=「(うなづく)」
城口弁護人=「古いことですが、五月一日の当日は調理の時間があって、カレーライスを作ったということについては記憶ありますか」
証人=「ありません」
城口弁護人=「五月一日に中田さんがいなくなったということについてはご存じですね」
証人=「はい」
城口弁護人=「その日の放課後のことについて記憶があればお尋ねしたいんですが、放課後あなたよりも先に中田さんが帰ったようなご記憶ですか」
証人=「・・・・・・記憶ないです」
城口弁護人=「中田さんがその日、誕生日であったということについてはご存じですか」
証人=「はい」
城口弁護人=「中田さんが帰る姿をその日見ましたか」
証人=「見ません」
城口弁護人=「(後に提出する昭和三十八年五月二十九日付の証人の検事調書末尾の署名部分を示す)これはあなたの書いた字ですか」
証人=「(うなづく)」
城口弁護人=「間違いない」
証人=「(うなづく)」
城口弁護人=「(後に提出する昭和三十八年七月一日付の証人の検事調書末尾の署名部分を示す)これは、あなたの字ですか」
証人=「(うなづく)」
城口弁護人=「拇印も、そうですね」
証人=「(うなづく)」
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山梨検事=「女学校時代に給食の時に牛乳が出たことを覚えていますか」
証人=「給食じゃないです。お弁当です」
山梨検事=「お弁当に牛乳が出ましたね」
証人=「出ないですよ。学校では」
山梨検事=「自分でとっていたの」
証人=「それぞれ皆んな買ったんじゃないんですか、学校から出てなかったです」
山梨検事=「自分で買って飲んでいた」
証人=「(うなづく)」
山梨検事=「その時にあなたは学校で飲んだか、自分のうちへ待って帰ったか、記憶ありますか」
証人=「私は飲まなかった」
山梨検事=「飲まなくて、その牛乳はどうしましたか」
証人=「牛乳飲んでなかったです」
山梨検事=「牛乳は全然とらなかった」
証人=「記憶ないです」
山梨検事=「古い記録を見ますと、何かあなたが学校では飲まないでうちへ持って行ったというようなことを書いたのがあるんだけど、そんなこと記憶ない」
証人=「ないですね」
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裁判所速記官 重信義子