【狭山事件公判調書第二審3872丁〜】
「第六十八回公判調書(供述)」(昭和四十七年九月)
証人=中根敏子(二十四才・会社員)
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裁判長=「さっきあなたはインクの色はブルーと言っただけで、ブルーブラックであるということまでははっきり言えなかったわけだが、インクが、正確に言って元入れていた万年筆のインクとそっくり同じものかどうか、ということはあなたとしては勿論言えないわけだね」
証人=「ええ、そうです」
裁判長=「だいたい同じ系統のもので、黒インクは使ったことはないということは言えると」
証人=「ええ、そうです」
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青木弁護人=「五月一日の調理の時間のことについてですが、これは材料は持込みなんですか。それとも学校で一括して買うんでしょうか」
証人=「学校で一括して買う場合もありますし、農家の人がありますので家から持って来る時もあります」
青木弁護人=「そうしますとその日の材料は持込みだったかどうか、前もって、この調理の時間にはこれこれの材料を持って来なさいと先生の方から言われて持って来ることになっていたんですか」
証人=「そういうこともありました」
青木弁護人=「自分のところから持って来る」
証人=「お米など結局そうじゃないかと思います」
青木弁護人=「その日のことですが、おかずのほうの材料は」
証人=「ちょっとその時のことは分からないんです」
青木弁護人=「学校で買ったか、それとも持って来たか分からないんですか」
証人=「ええ、その日のことは分からないです」
青木弁護人=「だけど持っていくものは決まったものを持って行くわけですか、皆が」
証人=「各自がですか・・・・・・」
青木弁護人=「おかずの材料、カレーライスならばカレーライスで肉とか玉ねぎとか、じゃが芋とかは皆決まったものを、あなたの班以外の人も一つのクラスならば同じものを持っていくわけですか」
証人=「そうですね、だと思うんですけれども、ちょっと分かりません」
青木弁護人=「てんでんに勝手に持っていっていいということじゃなくて、一応そのために前もってその日の材料を何と何を調理の時間には持って来なさいと言われて持っていくわけですか」
証人=「そうじゃないかと思います」
青木弁護人=「その日は先ほど仰ったように玉ねぎと肉とじゃが芋と福神漬だったんですね」
証人=「ええ」
青木弁護人=「トマトは入ってなかったというご記憶ですね」
証人=「トマトはちょっと記憶ないんです」
青木弁護人=「人参はどうでした」
証人=「人参はあったと思いました」
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裁判所速記官 沢田怜子
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○ここでもう一人、被害者の同級生が証人として法廷に出廷している。
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証人=堀越とよ子(二十五才・主婦)
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城口弁護人=「あなたは中田善枝さんと小学校、中学校、高校と、同じ学校に所属したわけですね」
証人=「はい」
城口弁護人=「小、中学校の間で、一度だけ同じクラスになったということもあるわけですか」
証人=「・・・・・・・・・」
城口弁護人=「小学校のほうでは一緒になった記憶ありますか」
証人=「・・・・・・・・・」
城口弁護人=「中学校のほうはどうですか」
証人=「中学校は一緒でないです」
城口弁護人=「一緒にならなかった」
証人=「はい」
城口弁護人=「高等学校は、同じ高等学校だったわけですが、あなたと同じ堀兼からこの入間川分校に通っていた人は他にありましたか」
証人=「ありません」
城口弁護人=「中田さんだけだと、こういうことですね」
証人=「はい」
城口弁護人=「あなたと中田さんの通学路のことについてちょっとお尋ねしたいんですが、同じ方角なので一緒に通うというようなことだったんですか」
証人=「いや、全然ないです」
城口弁護人=「帰りはどうですか」
証人=「帰りもないです」
城口弁護人=「全然ないという意味ですか」
証人=「はい」
城口弁護人=「一度だけあったということはありますか」
証人=「・・・・・・・・・」
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裁判長=「返事できますか」
証人=「まだ入学したてで、全然帰ったことないです」
城口弁護人=「あなたの住んでいらっしゃる場所と、中田さんのいた場所は相当離れていたんですか」
証人=「地区が違います」
城口弁護人=「たとえばキロ数でいうと何キロくらい離れているとか、そういうことはいかがですか」
証人=「・・・・・・ここから有楽町の駅くらいです。もっとあったかな(証人が出廷している高等裁判所は千代田区霞ヶ関にある=筆者注)」
城口弁護人=「自転車で行くと何分くらいということですか」
証人=「・・・・・・十五分くらいです」
城口弁護人=「あなたの通学路なんですが、学校からご家庭まではどういう道を通っていらっしゃいましたか」
証人=「入間川の町があるでしょう、あれから田中へ抜けて、で、電車通りを越えて、で、三ッ木へ出て、それで青柳のほうへ出て、それで𡋽下(はけした)の自分の家へ行くんです」
城口弁護人=「薬研坂という所はご存じですか」
証人=「はい」
城口弁護人=「それとは全然方向が違うわけですか」
証人=「違います」
城口弁護人=「薬研坂を通って帰ると遠回りになるんですか、お宅は」
証人=「はい」
城口弁護人=「中田さんのほうはどうですか」
証人=「近いんじゃないんですか」
城口弁護人=「中田さんのご家庭はご存じですか」
証人=「知っています」
(続く)
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○堀越証人は帰宅コースに関する証言の中で「𡋽下」という地名を述べている。
埼玉県狭山市の県道8号線(川越入間線)沿道に「はけした」という地名がある。この「はけ」を漢字で書くと「土偏+赤=𡋽」であるが、どうやらこの字は当地域でしか通用しない国字らしい ( JIS-X0213-2面4区82点)。
ここの町名は「堀兼」であるので「𡋽下(はけした)」は字(あざ)名となろうか。
調べを進めてみるとこの場所にはバス会社2社のバス停があるが、写真のバス停標識の表記は誤りである可能性があるという。
この問題に対しては、さらなる捜査が必要である。