(『女学生の友』昭和三十八年三月号・四月号)
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【狭山事件公判調書第二審3870丁〜】
「第六十八回公判調書(供述)」(昭和四十七年九月)
証人=中根敏子(二十四才・会社員)
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山梨検事=「先ほどの『女学生の友』という雑誌のことですが、あなたの証言は結局、善枝ちゃんに貸したことは覚えているんですか、いないんですか」
証人=「覚えていないんです。借りたことは覚えてますけれども」
山梨検事=「誰からですか」
証人=「先ほどの鎌田さんです」
山梨検事=「あなたの一審の証言を見ますと、その日善枝ちゃんに貸したものがあるか、と聞かれて『はい』と。何を貸しましたか、それに対して『友だちから借りた本です』、何という本ですか、『女学生の友です』、そして何月号かというのに対しては三月号か四月号だった、と証言しているんですね」
証人=「ああ、そうですか」
山梨検事=「どうですか」
証人=「ちょっと分からないんです」
山梨検事=「善枝ちゃんのカバンの中からこの本が出て来たんじゃないんですか」
証人=「今じゃ分かりません」
山梨検事=「今、一審でこういうようなことを述べたというようなことを考えてみて」
証人=「・・・・・・ちょっと分からないです」
山梨検事=「分からないというのは思い出せないんですか」
証人=「記憶ないんですけれども」
山梨検事=「一審で言ったことは間違いかな」
証人=「その時のことはね、それで間違ってないと思うんですが、今となっては思い出しても分からないんです。借りたことは覚えているんですが」
山梨検事=「その借りた本の行方が当時問題にならなかったかな」
証人=「・・・・・・・・・・・・」
山梨検事=「結局、善枝ちゃんのカバンの中からその本が出て来ているというのじゃないの、あなたから借りた本が。思い出さないかな」
証人=「ちょっと分からないんです」
山梨検事=「一審で述べたことは、あなたとしては嘘を言った覚えはないと」
証人=「はい」
山梨検事=「現在の記憶としてははっきりしないと」
証人=「はい」
山梨検事=「それから先ほどの手帳の話ですが、手帳というのはまあ、持つことにはなっているというんだが、これは学校から配布になるの」
証人=「ええ、配布になるんだと思います」
山梨検事=「それとも個人で文房具屋から買うものですか」
証人=「いや、そういうことはなかったと思います」
山梨検事=「あなた自身のはどうした」
証人=「私のは卒業する時に返したのかしら・・・・・・、ちょっと忘れました」
山梨検事=「あなたは善枝ちゃんとは中学は違いますね」
証人=「はい」
山梨検事=「善枝ちゃんは中学はどこですか」
証人=「知りません」
山梨検事=「堀兼中学なんですが、その卒業の時に生徒会から手帳を貰っているんだがねぇ、その手帳は弁護士さんが今ほど仰った手帳らしいんですが、皆いろいろ手帳を持っていたんじゃないの」
証人=「・・・・・・・・・」
山梨検事=「手帳に学校の写真が出ていたという弁護士さんの質問は堀兼中学の写真だというわけだが、皆それぞれ中学時代に持っていた手帳とか、あるいは学校に入って貰った手帳とか、一律に高校に入って貰った手帳というのかな」
証人=「・・・・・・私はグリーンの手帳を持っていたんです。その当時それは入学した時貰ったんじゃないかと思ったんですけれども」
山梨検事=「入学の時に誰から」
証人=「先生からだと思いますけれども、そう言われてみますと中学の時の手帳かも知れませんし。何でも校歌が入っていたのははっきり覚えているんです」
山梨検事=「それから先ほど証言のあった、善枝ちゃんにインクを貸したことがあるということなんですけれども、そのあとで、あなたが学校に持って行ったインクビンを警察に出しましたか」
証人=「ええ、出しました」
山梨検事=「それはブルーブラックのインクということなんですが」
証人=「・・・・・・・・・」
山梨検事=「先ほどちょっと弁護士さんから聞いたんですが、善枝ちゃんにインクを貸す時に善枝ちゃんが、色が違っちゃうかな、というようなことをあなたに言った記憶はない」
証人=「ちょっと記憶は、分からないです」
山梨検事=「これは弁護士さんに開示したあなたの調書の中に出ているんですけれども、中田さんがあなたにインクを貸してくれと言った時に、色が違っちゃうんじゃないかなと言ったと、したがって中田さんの入れていたインクと、必ずしも同じかどうか言えないんじゃないかな」
証人=「はっきり覚えてないんです」
(続く)