アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1263

狭山事件公判調書第二審3868丁〜】

「第六十八回公判調書(供述)」(昭和四十七年九月)

証人=中根敏子(二十四才・会社員)

                                            *

橋本弁護人=「身分証明書をその手帳の中に、はさみ込めるようになっていたんですか。定期入れみたいな形になって差込めるようになっていたものですか」

証人=「そういうのじゃないと思うんですけど」

橋本弁護人=「普通の、その辺の文房具屋で売っているような体裁のもの」

証人=「はい、そうです、と思います」

橋本弁護人=「写真など入っていましたか、学校の校舎の写真など」

証人=「ないと思うんですけど」

橋本弁護人=「手帳といいますと、中は書き込めるようになっているわけですね」

証人=「だと思いますけれども、ちょっと・・・・・・」

橋本弁護人=「そういう手帳をあなたはいつも学校に持って来ていたんですか」

証人=「ええ、カバンの中に入っていました」

橋本弁護人=「善枝さんがその手帳を持って来ていたかどうか、見たことありますか」

証人=「ちょっと分かりません」

橋本弁護人=「その手帳は上着のポケットに入れること出来ますか」

証人=「どうかしら、ちょっと分かりません」

橋本弁護人=「上着にポケットありますね。そのポケットの大きさで、入れようと思えば」

証人=「脇のでしたら入ると思います」

橋本弁護人=「善枝さんが財布を持っていたらしいんですが、見たことありますか」

証人=「ちょっと分からないんです」

橋本弁護人=「善枝さんと一緒にどこかに遊びに行ったようなことはありますか」

証人=「全然ないです」

橋本弁護人=「あなたは財布持っておりましたか」

証人=「その時は定期入れと財布と一緒になっていたのを使っていたと思います」

橋本弁護人=「それは定期入れなんですか、財布なんですか」

証人=「定期入れでしょうねぇ、ちょっと分かりませんけれども」

橋本弁護人=「あなたはその財布はどこに持っていましたか」

証人=「カバンの中です」

                                            *

山上弁護人=「四月に入間川分校にお入りになったんですね」

証人=「はい、そうです」

山上弁護人=「実際にそうしますと、善枝さんと教室であなたが一緒に、あなたがうしろで善枝さんがすぐ前だったんですね」

証人=「そうです」

山上弁護人=「善枝さんのことを聞く前にあなたのことを聞くんですが、筆入れというものをそれぞれ持っていられると思いますが、あなたは持っておられましたか」

証人=「持っていたと思いますけれども」

山上弁護人=「あなた、当時の自分のを覚えてますか」

証人=「チャックが付いているのを持っていたような気がしますけれども」

山上弁護人=「善枝さんはどういう筆入れを使っていたか覚えてないですか」

証人=「筆入れは記憶ないですけれども、いつもきちんとしてあったような・・・・・・鉛筆なんかが」

山上弁護人=「女学生というか、高校生なんかはだいたい鉛筆を削るカミソリとか、鉛筆削り、そういう風なものを持っておられるんじゃないですか」

証人=「そうですね」

山上弁護人=「善枝さんもお持ちじゃなかっただろうかと、貸し借りをしたことはありませんか」

証人=「誰とか分かりませんけれども、そういう覚えはあります」

山上弁護人=「善枝さんのカミソリか、鉛筆削りかどうか、はよく切れましたか」

証人=「中田さんかどうか分からないんですけれども」

山上弁護人=「中田善枝さんと鉛筆削りを貸し借りしたことは」

証人=「誰とだか分からないんです」

山上弁護人=「善枝さんの筆入れの中にカミソリか鉛筆削りがあったかも知れないということになるんですか」

証人=「そうですね」

山上弁護人=「五月一日のこと、ずいぶん古い前のことなんですけれども、この日はまあ、あなたはお忘れになったかも知れないけれども、記録上は英語の時間が最後で二時三十五分ころ終わったんだということになっているんですけれども、そう言われれば思い出しますか」

証人=「分かりません」

山上弁護人=「その放課後というのは別段残らなければいけないようなことはあるんですか、帰れればそれぞれ帰れるようなことですか」

証人=「終われば帰れます」

(続く)

                                            *

狭山事件は昭和三十八年五月一日が起点となるわけだが、被害者の高校生は同年四月に入学しており、交友関係を築く間もなく亡くなってしまう。証人は目の前に座る人はどんな人かなという段階での、こういった状況の中で事件が発生し、しかし法廷で証言することになった彼女の心境はこれまた大変であったであろう。

     ところでいわゆる公判調書とは、高学歴者らによって完璧に仕上げられた裁判記録文書と思っていたが、そうとも言えない現象を確認してしまう。

たとえば、鉛筆の先で指し示したこれなどは前後の文脈からみて『一審』という表記が正しいと断言出来る。

こちらも『持つこと』という表記が正しく、『時つこと』という表記は裁判所速記官による誤変換であることは明らかである。長期に及ぶ裁判で速記官もお疲れぎみなのだろうか。