【狭山事件公判調書第二審3866丁〜】
「第六十八回公判調書(供述)」(昭和四十七年九月)
証人=中根敏子(二十四才・会社員)
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城口弁護人=「インクをあなたは誰かに貸すというようなことはありましたか」
証人=「その日ですか」
城口弁護人=「いや、その日でなくても、事件頃に」
証人=「ええ、やはりなくなると私は持ってましたから借りに来る人はおりました」
城口弁護人=「インクビンを持って来る人は、人数としては」
証人=「あんまりなかったと思います」
城口弁護人=「インクを貸した人にはどういう人がいましたか」
証人=「中田さんに貸したのは覚えております。ほかには分かりません」
城口弁護人=「いつ頃でしょう」
証人=「事件のあった日か前の日だと思いますけれども、よく分からないんです」
城口弁護人=「どういう機会に貸したかについては」
証人=「やはり私がうしろにいたからじゃないですか」
城口弁護人=「たとえば授業が始まってからとか、始まる前とか、昼休みとか、そういったようなことで何か、中田さんが書き物をするために貸してくれということだったのかどうか」
証人=「その点ははっきりしません」
城口弁護人=「ペン習字というのは一週間に何回かあるんですか」
証人=「一回か二回だと思います」
城口弁護人=「曜日についてはご記憶はありますか」
証人=「火曜日かなぁ・・・・・・分かんないです」
城口弁護人=「五月一日当日は、ペン習字があったということは知っていますか」
証人=「知ってます」
城口弁護人=「インクを貸したのが先ほどその日か、その前の日か、ということでしたね」
証人=「はい」
城口弁護人=「ペン習字があったのでその日に貸したんでしょうかね」
証人=「別にそういうことを考えないで貸しましたから分かりません」
城口弁護人=「中田さんの、クラスにおける役職というかそういうのは知っていますか」
証人=「会長か何かやっていたのかしら・・・・・・」
城口弁護人=「クラスの会長、組の級長というような趣旨」
証人=「そうですねぇ」
城口弁護人=「先ほどあなたは彼女の性格とか何かについてよく分からないということだったんですが、一緒にいた期間というのは短かかったからなんでしょうが、その範囲内で感じる彼女の性格というような点については指摘することが出来ますか」
証人=「頭がよくて、人柄が良かったです」
城口弁護人=「人に一緒になって勉強を教えるというようなことも」
証人=「あったと思います」
城口弁護人=「あなたはそういう機会を持ったことは」
証人=「なかったように思います。記憶にないです」
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藤田弁護人=「ペン習字を習っていらっしゃったんですね」
証人=「はい」
藤田弁護人=「だいたいどういうインクを使うか、先生がこういうインクを使いなさいということで決まっているんでしょう」
証人=「そうですね」
藤田弁護人=「それはブルーブラックでしょう。クラスの人はだいたいそのインクを万年筆に入れているわけでしょう」
証人=「はい」
藤田弁護人=「中田さんがあなたのインクを借りたのは、予め同じようなインクを自分も入れておったんじゃないの」
証人=「その点はちょっと」
藤田弁護人=「クラスではだいたい同じインクを使っておったんでしょう」
証人=「そうですね」
藤田弁護人=「ペン習字ということでですね」
証人=「はい、そうです」
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橋本弁護人=「先ほど手帳を学校から貰ったと言いましたが、その手帳は皆、毎日学校に持って来るように言われておったんですか」
証人=「一応携帯するような形になっていたと思います」
橋本弁護人=「大きさはどれくらいのものですか」
証人=「さっきのと同じような大きさだと思います」
橋本弁護人=「身分証明書くらいの」
証人=「ええ」
橋本弁護人=「厚さはどれくらいのものですか」
証人=「さあ・・・・・・、一センチはあったかしら・・・」
橋本弁護人=「ページ数でいうと」
証人=「そこまで覚えていません」
橋本弁護人=「それは学校の名前は入っていましたか」
証人=「入っています」
橋本弁護人=「川越高校入間川分校というのが入っていたんですね」
証人=「ええ、そうです」
橋本弁護人=「そして学校の校歌とか、いろいろなものが印刷されて入っていたものですね」
証人=「ええ、そうです」
(続く)