○事件当日の被害者の足どりは今もなお謎に包まれている。当初警察はその足どりについても捜査を行なっているが、しかしこれに関する数多くの捜査記録は隠されたままである。この日に限ってなぜ彼女はいつもの帰宅経路とは逆の方角へ向かったのか・・・。
【狭山事件公判調書第二審3863丁〜】
「第六十八回公判調書(供述)」(昭和四十七年九月)
証人=中根敏子(二十四才・会社員)
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城口弁護人=「通常は授業が終わって、掃除をするとかなんとかというようなことは定期的にやっていたんですか」
証人=「あったと思います」
城口弁護人=「それは全員がやるということですか、当番制だったですか」
証人=「当番制だったと思いますけれども」
城口弁護人=「その日に中田さんがそのために遅かったか、ということは」
証人=「分からないです」
城口弁護人=「中田さんはその日は何時頃帰ったかということについてはご記憶ありますか」
証人=「そうですねぇ、三時台だと思います」
城口弁護人=「あなたが帰ろうとする普通の時間は何時ですか」
証人=「三時五十分くらいの電車に毎日乗りますから、それより十分くらい前に出ると思うんです」
城口弁護人=「以前には三時二十四分の電車で帰るのが通例だったと、その後、学校に慣れてからは何時になったか知りませんが、そういうことを言っているんですが」
証人=「三時台だということは覚えているんですけど、時間ははっきりは」
城口弁護人=「あなたが三時二十四分の電車に乗って帰るためにその頃時間を見たところが、あなたの時計では三時十三分だったということも供述しておりますが」
証人=「ちょっと分からないんです」
城口弁護人=「当日あなたが帰る時間よりも先に中田さんが帰りましたか」
証人=「先だと思うんですけど、分からないですね」
城口弁護人=「何か、その日に中田さんが帰るに際してあなたに声をかけるとか、帰る理由を言うとかいうようなことはありましたか」
証人=「声かけられたような気がするんですけど、今から思えばどんなようなことか・・・・・・」
城口弁護人=「内容については記憶ない」
証人=「ええ」
城口弁護人=「当日天気が○○○○○(印字不鮮明・写真参照)かということについてご記憶ですか」
証人=「天気です○○○○○(印字不鮮明・写真参照)だったというように」
城口弁護人=「帰りの時間頃」
証人=「ええ」
城口弁護人=「それについて雑談の中では話題にはなりませんでしたか。雨が降りそうだ、というようなことは」
証人=「ちょっと、分からないです」
城口弁護人=「五月一日という日は中田さんの誕生日に当るんですが、ご存じでしたか」
証人=「いいえ」
城口弁護人=「当時は全然知らなかったということですか」
証人=「その時は知っていたのかも知れませんけれども、今はもう・・・・・・」
城口弁護人=「誕生日だから早く帰るんだとか、そういう話は聞いたことないでしょうか」
証人=「ちょっと分からないですね」
城口弁護人=「当時、東京オリンピックの記念切手をクラスで買いたい枚数を集計したというようなことがありましたね」
証人=「あったような感じがするんですけれども」
城口弁護人=「あなたはそれを買いましたか」
証人=「興味がないから買わなかったです」
城口弁護人=「その日に中田さんに頼んで、放課後領収書を取りに行くようなことが話に出ませんでしたか」
証人=「中田さんか誰か分からないんですけれども、誰かやっていたような気がするんです」
城口弁護人=「帰るに際して郵便局に寄るという趣旨のことを言っていたという記憶はないですか」
証人=「そういう風に言われてみれば何か言ったんじゃないかなぁと、薄々ですけれども」
(続く)
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事件翌年となる1964年には東京オリンピック開催をひかえ、郵便局にはこのような記念切手が準備されていた。