【狭山事件公判調書第二審3855丁〜】
「第六十八回公判調書(供述)」(昭和四十七年九月)
証人=大沢利昭(四十一歳・東京大学教授)
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裁判長=「さっき蛋白質の糊というのは検出されなかったと仰いましたね」
証人=「はい」
裁判長=「今の唾液の検査は三木教授がやられた、そのほうに、その部分に、だいぶ詳しく書かれておりますが、そのほうはあなたは全然どういう風になっているかということはご存じなかったんでしょうか、一応は聞いたんでしょうか」
証人=「一応は聞いております」
裁判長=「その中にB型質の存在について触れているところがありますね」
証人=「はい」
裁判長=「そうすると、今証言なさったところとどういう風な関連になりますか」
証人=「B型の物質とですか。B型物質というのは、これはいわゆる型物質でございまして、唾液の中に含まれている型物質は、これはかなり炭水化物が多いものです。いわゆる八十パーセントくらいが炭水化物ですね。で、その蛋白、型物質の、蛋白として定量する、あるいは検出するというのは、極めて難しい問題です」
裁判長=「ですけれども、これはちょっと範囲が違ってくるんだが、今の、封緘部分にはB型質が存在するように思われたが、予め貼り合わせられた部分、あなたのほうで言うとBの部分ですね」
証人=「はい」
裁判長=「Aの部分にはB型質が存在するように思われたが、Bの部分ともそれをいくらか出るようなので、弱いながら出るようなので、それは結論としてはB型質を否定できないような結果が得られたように書いてございます。だから本来ならば貼り合わせのところ、封緘する部分にはB型質が存在するように思われた、それだけだったらB型質の存在があるんだと、認定が出来たんじゃないかという風に思われるんですが、そういう風に三木教授は言っておられるんだから・・・・・・」
証人=「貼り合わせ部分ですか」
裁判長=「封緘部分にはB型質が存在するように思われたと言われる、ところが、予め貼り合わされた部分には弱いながらB型質を否定できないような性質が得られたと。そんなところに、ある筈がなさそうなところに、あなたのほうの検査でおやりになると澱粉しかない、そこからB型質が否定できないような結果が得られたから、それで全体ひっくるめるとA型質もB型質も証明できなかったということになるのか、予め貼り合わせたところにB型質が否定できたならば、封緘部分にはB型質ありという認定ができたという風な鑑定なんですね、これは」
証人=「はい」
裁判長=「それを問題にされているんじゃないかと思うんですがね、それは分野じゃないから深く質問はいたしませんが」
証人=「私の意見でございますか・・・・・・」
裁判長=「蛋白質に関係して」
証人=「貼り合わせ部分の、予め貼り合わした部分で、そこは唾液で濡らした可能性が極めて少ないというか、ほとんど蓋然性がない、そういう部分でB型質の反応が見られたということから、要するに貼り合わした部分、濡らして貼り合わしたかも知れない部分に得られたB型質の反応というものが、非常に当てにならないというそういう結論だと思います」
裁判長=「それはそうだけれども、一応あなたのほうでお調べになったんだから、予め貼り合わせた部分に、そういうところにB型質が否定できないという結果は、どういう風にお考えになるかということです」
証人=「これはですね、要するにこれは何でやったかというと、要するに抗B抗体を使っていると思いますが、抗B凝集素を使っているんですが、これが、いろいろな物質によるいわゆる交差反応があるんです。そういう若干の交差反応に由来するものだと思います。これは私どものほうでは澱粉、糊としては澱粉しか検出しておりません。しかし、そこに含まれていた抽出液に含まれていたすべての物質を検出したわけではございません」
裁判長=「そうするとあなたの検査方法によるとB型質の有無ということは関係ないから、そんなものは出ないと、こういう風に伺ってよろしいですか」
証人=「B型質は関係ないから出ないと言いますと・・・・・・」
裁判長=「最前のは澱粉とアラビアゴム、ポリビニルアルコールの三種が出るか、出ないかと」
証人=「はい、私はそれを」
裁判長=「だからあなたの検査方法では出ないんだと」
証人=「私の検査方法では出ないんです」
裁判長=「どうして、そこに、あるべからざるようなところにB型質が否定できないような結果が出たかというようなことについては、ちょっと説明は無理ということになるんでしょうね」
証人=「はい説明できません」
(続く)