【狭山事件公判調書第二審3846丁〜】
「第六十八回公判調書(供述)」(昭和四十七年九月)
証人=大沢利昭(四十一歳・東京大学教授)
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福地弁護人=「鑑定書を拝見いたしますと、いろいろな実験をおやりになっておられますが、ちょっとお尋ねしたいのは、最初に肉眼ないし拡大鏡を使って、あるいは顕微鏡を使って外表の検査をおやりになっておられないのではないか、糊付け部分について、これはおやりになったでしょうか、ならなかったでしょうか」
証人=「外見の検査、目で見るということはやりました」
福地弁護人=「肉眼的な」
証人=「ええ。しかし糊が付いているか、いないかということですね、顕微鏡による検査はいたしませんでした」
福地弁護人=「拡大鏡を使っての検査もおやりになりませんか」
証人=「いわゆる、虫眼鏡で、やっておりません」
福地弁護人=「肉眼でご覧になった時に、何か特別お気付きになった点はございましたか」
証人=「なんら特別の所見はございませんでした」
福地弁護人=「顕微鏡ないし拡大鏡を使って検査をしようという風にはお考えにならなかったでしょうか」
証人=「考えませんでした。結局、糊の種類を問題にしておりますので、糊の性質および種類を。ですから化学的な検査をいたしました」
福地弁護人=「物理的な形状等は当初から考慮しておられないでしょうか」
証人=「物理的な、でございますか」
福地弁護人=「たとえば糊が一部分に塗ってあるとか、ある一部分が非常に分厚くなっているとか、むらがあるというような点については関心はおありにならなかったですか」
証人=「肉眼的に観察した限りにおいて、そういうことを調べなければならないということを感じなかったわけです」
福地弁護人=「鑑定書をご覧になって下さい、鑑定書の三ページ第一章"糊の試験"の中に、『一般に封筒の製造に使用する、あるいは封筒の封緘部分に付ける接着剤としては(一)でんぷん糊、(二)アラビアゴム、(三)ポリビニルアルコールが最も広く使用されている』と書いてございますが、こういう風にお書きになるについては何かお調べになったんでしょうか」
証人=「はい、調べました。その当時に、一般に使用されている封筒の糊というものはどういうものが使用されているかということを調査はいたしました」
福地弁護人=「少し具体的にその調査の内容を教えていただけませんでしょうか」
証人=「結局ですね、まあ、その当時も現在もそうですが、封筒の糊に使用するものとしては、でんぷん糊、アラビアゴム、ポリビニルアルコールが、一般に使用されていると。使用頻度はどうかということについては正確な統計はございません。もう一つは必ずしもこういう水溶性の糊というのは、必ずしも単独で使用するとは限らない、各々組み合わせはございますけれども、混合使用することが多いと、その程度のことは分かりました」
福地弁護人=「そうすると、ことさらに調査をするまでもなく、ちょっと調べれば分かることだと、この三つが接着剤として使用されているということは」
証人=「はい、そういうことでございます」
福地弁護人=「同じく鑑定書の十ページをご覧下さい。考察の部分に、終わりから三行目、『一般にでんぷん糊、アラビアゴム、ポリビニルアルコールなど水溶性接着剤は混合使用することが多い』、これの根拠というのは、ここに引用されておるこの文書によるものですか」
証人=「この文書によります。それから糊の業者からも聞きました」
福地弁護人=「糊の業者というと具体的にはどういうような」
証人=「非常に零細な企業が多いんですが、私が問い合せましたのは、名前は・・・・・・・・・忘れました。両方忘れてしまいました」
福地弁護人=「何箇所くらい」
証人=「二箇所ばかり」
福地弁護人=「市販の封筒の糊付け部分ですが、封緘部分のここにどういう糊が付いているものなのか、元々ですね。この点についての調査は具体的にはどういうことをなさいましたか」
証人=「試薬による定色反応、ガスクロマトグラフィー(注:1)による検査を、市販の封筒についても致しました」
福地弁護人=「市販の封筒はどの程度のものを集めてなさいましたか」
証人=「一般に市販されているような封筒を三種類ばかり」
(続く)
注:1ガスクロマトグラフィー (Gas Chromatography, GC) はクロマトグラフィーの一種であり、気化しやすい化合物の同定・定量に用いられる機器分析の手法である。サンプルと移動相が気体であることが特徴である。ガスクロマトグラフィーに用いる装置のことをガスクロマトグラフという。また、ガスクロとも呼称される。