【狭山事件公判調書第二審3837丁〜】
証人=高村巌
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裁判長=「あなたの考えでは、まあ対照する文書、その字の類似性が一つ問題になるわけですがね、筆跡鑑定の上では類似しているということが全体に占める重みというのはどういう風な程度でしょうか」
証人=「これはやはり七十パーセント以上あると思いますがね」
裁判長=「まあ数字に表わしてみれば似てるということが非常に重みがあると、あなたは七十パーセントの重みがあるという風に考えると」
証人=「はい、ただ問題は似せて書いたものがございますので、似せて書いたものが類似しておりましても、形だけが類似しておっても、非常に中に渋滞している不自然なところがありますので、それで分かるわけでございますが、中には分からない、非常に疑問なものもないではないわけです」
裁判長=「まあ潜在的個性という風なことの論議があったんですけれどもね、この潜在的個性というのはあなたのような専門家から見るとちっとも潜在的個性じゃない、一見して分かるんだと、いわば顕在的個性であるという場合があるんですか」
証人=「そうでございますね」
裁判長=「素人が見るとちょっと気が付かないからそういうものは潜在的と」
証人=「そうですね。そういうことになります」
裁判長=「そういう風にあなたは使っているわけですか」
証人=「はい、そうです。説明しても中々分かっていただけないこともあるわけです」
裁判長=「そうすると、本件では被検文書というのは一つ、対照文書が二つありますね」
証人=「はい」
裁判長=「もっと対照文書がたくさんあると、そうするとこの潜在的個性と言おうか、顕在的個性と言おうかそういうものが材料がたくさんあるから、これこの通りみんなこういう特徴が同じではないか、ということを提供できる筈だという風にあなたは仰る」
証人=「ええ、そうでございます」
裁判長=「それから、さっき弁護人も問われたんだが、この写真のほうに表わして説明されたのと、写真には表わさなかったのとは、選び方に区別がありますか」
証人=「それは全部を表わしておりますと、やはり全字についてやらなくちゃいけませんので、比較的特徴の現われていると言いますか、説明しやすい文字について出したわけです。で、これは全部写真に撮って、全字についてやれば一番よく分かるわけですけれども」
裁判長=「そうすると、全部で何字あってそれを一々こういう字は何字あると、こういう字は何字存在するということを全部分析した上で、その中で比較的説明のしやすい特徴の、また、現われているようなものを特に取り上げて説明したんだと、こう仰るわけですか」
証人=「そうでございます。それで長いこと時間がかかったわけです」
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山上弁護人=「第2図の脅迫状を見て下さい。あなたが検査しているところから数えれば二行目ですね。子供の『供』がありますね」
証人=「はい」
山上弁護人=「この人偏は第一筆、それから第二筆の割合を見ますと、第二筆のほうが長いように見えますが」
証人=「・・・・・・・・・・・・」
山上弁護人=「少なくとも短いということはないでしょう。第二筆のほうが長めですね」
証人=「そうですね、少し長めかも知れませんね。だいたい同じくらいか、長いかというところでしょうね」
山上弁護人=「それから三行目に『子供の命が』の『供』がありますね」
証人=「はい」
山上弁護人=「この人偏は第一筆と第二筆の差はどうでしょうか」
証人=「長いですね」
山上弁護人=「明らかに第二筆が長いですね」
証人=「はい」
山上弁護人=「それから三行目の『子供が西武園の』の『供』の人偏は第二筆が明らかに長いですね」
証人=「ええ」
山上弁護人=「次、一行おいて、『子供』の『供』、この人偏についてはどうでしょうか」
証人=「これも長いでしょう」
山上弁護人=「これも第一筆よりも第二筆が長いですね」
証人=「はい」
山上弁護人=「それから、下に大きな字で書いてある『子供』の『供』の人偏、これもやはり第二筆が長い」
証人=「はい」
山上弁護人=「このような脅迫状の人偏を見まして、こういう書き方は脅迫状の筆者の人偏を書く場合の癖であるという具合に見てよろしいでしょうか」
証人=「・・・・・・・・・」
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(続く)