アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1249

狭山事件公判調書第二審3835丁~】

証人=高村巌

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山梨検事=「それで今度はこの事件の戸谷さんの鑑定書というのはあなたはご覧になりましたか」

証人=「いや、まだ見ておりません」

山梨検事=「これの鑑定の結論はですね、これはまあかなりの類似点は見られると、で、通常の学歴を持つ人の場合は同一筆跡であると判定するにあるいは十分であるかも知れないと、しかし本人が学歴が低く、日常、字を書くことがほとんどないグループに属するということであることを考慮すると、希少性という風なことを、結論を出しているんですがね、その例として、小学校の作文の中から文字を拾い出して、で、その小学校の作文の字から見て、これはまあ、あなたの鑑定で引用した『ら』という字の引用なんですが、『ら』という字が、まあ、被告人の筆跡に似た『ら』を書くんだと、このような字を書く人が成人した場合には恐らくこのような脅迫状の文字ですね、『ら』の字を書くだろうという言い方をしているんですがね、これ、まあその大人になったら恐らくこういう字を書くだろうという、まことにどうも科学的じゃない結論だと思うんだけど、これはどういう風にお考えになりますか」

証人=「まあそれをなさった人は恐らく素人で、その鑑定ということについては専門家ではないと思います。だからそういうことを言われるんだと思いますけれども、『ら』という字だけ一字だけとったり、二、三字だけとったりしただけではそういうことが言えないと思いますし、また何年か経ってからそうなるんじゃないかというようなことはちょっと予測出来ないことじゃないでしょうか」

山梨検事=「それから、これはちょっとまた別のことなんですが、先ほど少し配字の問題で、配字だけでは決定的なものとは言えないというご説明があったんですが、配字以外にまあ、配字も含めまして、句読点の有無とか、当て字、誤字、あるいは横書き縦書きということだけで、一体文字の異同ということは言えるんでしょうか」

証人=「それは、それだけでは言えないと思います。で、それにいろいろほかの文字そのものの形の特徴だとか、構成だとか、まあ、いろいろの特徴が指摘せられない限りは同一であるか違うかということは言えないんじゃないかと思います」

山梨検事=「だからそういう個々の文字の検討に、今言ったことも総合して判断するんだと、こういうことになるんですか」

証人=「はい」

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裁判長=「その句読点とか何とかというものによって、これは同一人の筆跡であるかどうかなんていうことは普段、筆跡鑑定人はやっぱりやるんですか」 

証人=「それはやってはおりませんです。参考にその、加味することはございますけれども、あまり鑑定にはそういうことは使っておりません」

裁判長=「そうすると、まあ筆跡鑑定にせよ、同一人の筆跡であるかどうか、鑑定せよということを裁判所から命ぜられた場合は、主に字を対象として鑑定をしているというのが現状ですか」

証人=「そうでございます」

裁判長=「たとえば文章は他人から言われたと、書くのは本人が書いたというような場合は、本人はこんな文章は書けないんだが、言われたから書いたということで、字は同じだが、こういう文章は書けないという問題があるでしょう。そういういろいろな場合があるわけだが、そういうところまで筆跡鑑定ではやっているんでしょうか、どうでしょうか」

証人=「そこまではやっておりませんですね」

裁判長=「それは命令されなければやらないんですか」

証人=「そうでございますね」

裁判長=「命令されればやる能力がありますか」

証人=「命令されればやらんならんと思いますが、果たしてそれが出来るかどうかは分かりません」

裁判長=「あなたの鑑定書の鑑定結果補遺の中に、二〇一八丁裏の初めから三行目に、『殊更に形態、筆意等の変造改ざん』とある、この『筆意』とはどういう意味でしょうか」

証人=「これはどうも昔からこの筆跡鑑定をやる者の中では筆意という言葉を使っておりますが、これはゆくゆく少し直さなくちゃいかんと思います。これは筆跡という意味です」

裁判長=「それから同じページの終わりから四、五行目に、『書かれたものはその集捨は一層の困難を見るものである』この『集捨』とはどういう意味ですか」

証人=「これはタイプが間違えたんですね。『集』は『取』の間違いで、そこは『取捨』です」

裁判長=「それから、二〇三五丁表の最後の行に、『連続線が太く表現される傾向があり、魯鈍(注:1)な筆致が認められる』この『魯鈍』というのはどういうことですか」

証人=「結局にぶいという意味です」

裁判長=「ただそれだけの意味ですか」

証人=「そうです」

裁判長=「魯鈍という言葉を特に使われたから、意味があるかと思って聞くんですがね」

証人=「これは鑑定の一つの用語になっております。にぶいという意味です」

(続く)

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注:1「魯鈍(ろどん)」=おろかでにぶいこと。