アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1247

狭山事件公判調書第二審3832丁〜】

証人=高村巌

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中田弁護人=「あなたは、ちょっと今被告人の名前をど忘れしたしたんですがね、静岡の地方裁判所の鑑定で間違った鑑定(注:1)をなさったことがあるでしょう」

証人=「ええ、あります」

中田弁護人=「あれは他の事件の証言を伺いますと、あなた自身が関与しておられなかったからだと、こういう風に伺えるのがあるんですが」

証人=「まあそう言われてもあれですが、組織の中におりますんで、私は課長でした。で、私の責任で私も関与しなかったわけではなくて、私が鑑定書は読むわけです。で、私はいいと思って判を押しているわけですが、ただあの時には非常にたくさんの鑑定が来ているわけです。で、そういうことで無責任なことをやっていちゃいかんというのでそれから私は一切やり方を変えて、そして一切持って来てはだめだと、制限しろということで、それで私は警察の組織の中にいてはいかんというので私は警察の組織から出て、そして何物にも左右されない、関与もされないという立場に立ってやり出したわけなんです」

中田弁護人=「それでその静岡のその結果としては誤った鑑定はどうなんですか、あなたが関与されなかったから」

証人=「いや、私も関与しなかったわけじゃない。私がやっているわけです。ただ手伝った人がありますね」

中田弁護人=「その同じ事件では町田さんも誤った結論を出したんでしょう」

証人=「ええ、そうですね」

中田弁護人=「町田さんは、いわばあなたに教えられた人でしょう」

証人=「そうです」

中田弁護人=「あなたが町田さんは私が教えたんだと言っておられますね」

証人=「はい」

中田弁護人=「町田さんは多少違った筆跡鑑定をとっておられる、つまり確率を多少入れた鑑定方法をとっておられるでしょう」

証人=「そうですね、パーセンテージを」

中田弁護人=「その町田さんと静岡の事件でなぜ間違ったのかを検討されたことがありますか」

証人=「いえ、もちろん町田君と鑑定の検討をしたことはありませんが、私は非常に詳しくその後検討したことがあります」

中田弁護人=「どこが間違いを冒した理由でしょう」

証人=「それは字数が少なくて、あれは三字だけなんです。名前で、住所も実は書いてあったんですが、住所は鑑定事項に入っていなかったんですね。で、三字の名前で結論を出すということは非常に危険なんです。ですから私は現在では三字くらいの名前では結論は出しておりません」

中田弁護人=「と、むしろ資料の貧弱そのものにあったと、こうなる」

証人=「そうですね。それからもう一つは、その他いろいろありますが、何と言いますか、パーセンテージで言いますと、その、六十何パーセントのパーセンテージが出ているわけです。それは私のやり方についてももちろんパーセンテージを出しますと、そういうことになります。それでそれがだいたい三十何パーセントの違いというものが出てきているわけです。それが非常に危険であったわけですね、今考えてみますと」

(続く)

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注:1 これは清水局事件を指し、昭和二十三年に静岡県清水市で発生した書留郵便の窃盗事件のことをいう。無実の罪に問われた冤罪被害者が自らの手で真犯人を探し出し、事件を解決に導いた稀有な事例として知られる。

   中田弁護人が町田という名前を挙げ高村証人へ尋問しているが、この町田という人物は警視庁刑事鑑識課技官=町田欣一を指す。清水局事件の控訴審において検察側の鑑定人として冤罪被害者と真犯人の筆跡を鑑定し、筆跡は同一人のものと結論を出す。

    これを受け弁護側は、科学捜査研究所写真課課長=高村巌に鑑定を依頼するも、鑑定結果は町田欣一同様、冤罪被害者と真犯人の筆跡は同一との結論を出した。

   すでに述べたが、真犯人は特定され事件は解決、冤罪被害者の無実は証明されたわけだが、それにともなって町田欣一と高村巌の筆跡鑑定は、両者そろって誤鑑定であることも証明されたのである。

写真は清水局事件の筆跡鑑定資料。