○脅迫文には当て字が多用されているが、その一つに「ほ知かたら(=欲しかったら)」という記述が確認できる。脅迫文を書いた者が「知」という字が「ち」とも「し」とも読めることを知っていないと、この当て字を用いることはない。その上で「知」という字をここへ当てるということは「知」の読みは「し」であると、脅迫文を書いた者は暗に示唆している。
ところで、石川被告が逮捕されたのち、脅迫状を手本とし、その文面を練習させられたのち書いたものが下の写真である。前述の脅迫状「ほ知かたら」という部分に該当する箇所を見ると「ほしかたら」と、平仮名で書かれている。なぜ「知」という漢字を用いなかったのか、これに関してはどこにもそれを指摘する資料は見当たらない・・・。
*
【狭山事件公判調書第二審3826丁〜】
証人=高村巌
*
中田弁護人=「私は大変その、慎重にあなたの鑑定書をいろいろと検討させてもらっているつもりなのですがね、その、分からんものは分からんでいいんだと仰られれば、これはまたああそうですかと言わざるを得ない、しかしそのことは同時にまた、あなたの鑑定の権威を低めることになるんだと私は思いますよ。なぜならば、特にあなたはこの本件の鑑定については潜在的個性ということを鑑定の方法として述べておられながら、本件すべての被検文書の中からその潜在的個性がここにあると言っておられないからですよ。結局そんなものはなかったんでしょう」
証人=「いや、私の言っておりますその中に潜在的個性があるわけです」
中田弁護人=「だから、それならばその潜在的個性はどこにあると、この鑑定書に書いてあるんですか。鑑定書全部の中から指摘して下さい。具体的な文字についてですよ」
証人=「もし指摘せよと仰るならば改めて指摘してもいいと思いますが」
中田弁護人=「それでは改めて指摘していただくことにしましょうかね。少なくとも、あなたの鑑定書を読む限りでは、鑑定の方法として潜在的個性が全面的、あるいは微細な点に表現されるものであるから、これを研究すれば正確に識別することが不可能ではないと、こう言っておられる。だからあなたの鑑定方法による主たる方法は、潜在的個性をいかに認識し、いかに審査攻究するかというところにあったはずなのです」
証人=「いや、そればかりに限っているわけではありませんですね。何かその誤解しておられるようですけれども、ちょっとこれは何でしたら潜在的個性を出して参りましょうか、近日中に」
中田弁護人=「まあ、大いに後で出していただきたいんですがね、しかし潜在的個性というのはそれだけ言ってるわけじゃないと言われる言い方も分からんではないけれども、あなたのこの鑑定結果補遺というのをずっと読んで行きますと、そのいろいろな面で筆跡の鑑定は難しいんだと、用紙、用筆もあれば心理状態もあれば、それから方法、それから年数の経過もあれば、つまり難しい、難しいということを書いておられるんですよ。その上で、しかし、潜在的個性を審査攻究すれば正確に識別することは不可能ではないと、こう言っておられるんだから、あなたの鑑定の目玉というのは潜在的個性でしょうが」
証人=「まあそういうことになりますかな」
中田弁護人=「その潜在的個性という指摘がどこにもないから伺っているんですがね、後でそれじゃ潜在的個性を引き出してもらいましょうか」
証人=「・・・・・・・・・・・・」
(続く)