(脅迫状の四行目にある"が"の字)
(脅迫状にある、他の"か"と"が"の字)
【狭山事件公判調書第二審3813丁〜】
証人=高村巌
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中田弁護人=「私がややこだわっていますのは、あなたが最初にとられた"か"の字、あなたは"か"の字と"が"の字を一緒に扱っておられるんですがね、この一緒に扱われたことに私、多少異議があるんですがそれは別にしまして、"か"の字は十字なんですよね、脅迫状には。そのうちの一字はあなたも指摘しておられるように書法が違うんです。これはあなた、鑑定書に書いておられるにも関わらず、あなたはその書法の違う一字を含む、"か"の字の一字を除く、他の字の書法をもって同一性の判断に供しておられるので、私がややこだわっているんですがね」
証人=「それは一つ指摘して下さい、"か"の字の違うというのを」
中田弁護人=「二〇二二丁からの"か"の字の検査の一番最後の行に、『"か"、"が"字が十九字以上書かれているうち、十八字までがこの書法によって書かれ、僅かに一字だけが異なった書法によって書かれている』と書かれているんですがね、私の見るところ、僅かに一字というのは第二図で言うと"子供の命がほ知かたら"を一行としますと、四行目の、"子供の命が"の"が"ではないかと思うんですが、あるいはあなたが言われる"が"は別の字ですかな」
証人=「・・・・・・・・・・・・」
中田弁護人=「私は"い"の字の特徴については、あなたが一つが左にいっているから、一つでもそれがあれば特徴だと言えないと仰ったから」
証人=「いや、特徴だと言えないというんじゃなくて、特徴としてとるのはちょっと具合が悪いということを言うんで、この"か"という字でも本当に一つでもそういうのがあるとまあ、完全とは言えないわけです、私が申しますのはね。しかし"か"という字は特徴が出る字ですから、そして人間が書くわけですから、字画の少ない"い"というものとは違ってマークをすべき字ですから、まあ、敢えてこれをとらえたわけですけれども」
中田弁護人=「敢えてとらえたけれども、そういう字画をとる字はあまり合理的ではなかったと言えるわけですかね」
証人=「合理的ではなかったと言うより完全ではないと」
中田弁護人=「ところでその特徴の出る字ということは"を"という字は特徴が出ますか」
証人=「特徴が出ることもございますね」
中田弁護人=「かなり、いわば字画構成で、あるいは文字形態で特徴が出る字ではありませんか」
証人=「特徴が出ることがあります。これは人によるんです」
中田弁護人=「今のご記憶で結構ですが、この"を"字は、数からいくと確かにそう多くはないんですがね、それでも文書には三字ないし二字あるんですがね、この"を"を特に挙げられなかったのは何か理由があるんでしょうか、具体的にこの鑑定にあたって」
証人=「一応調べてから挙げてないとすれば特徴としてあまり適当でないと認めたんじゃないかと思いますがね」
中田弁護人=「だからその特徴としてあまり適当でないと認めた理由が分かれば教えてもらいたいんですが」
証人=「たとえばこちらの第二図の消したところを含めて五行目にあります『一分出もをくれたらの』『を』の字と、一番最後のところの『もし金をとりに』の『を』とですね、これは同じ文書の中で比べてみましても、明らかに違った書法が用いられているわけです。こういう点で用いなかったんじゃないかと思いますがね」
("一分でもをくれたら"の『を』の字)
("もし金をとりに"の『を』の字)
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(続く)