【狭山事件公判調書第二審3794丁〜】
「第六十七回公判調書(供述)」
証人=新井千吉(五十八才・農業)
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福地弁護人=「中田善枝さんという娘さんが、あなたの所有の農道から死体で発見されましたね」
証人=「はい」
福地弁護人=「あなたの所有の農道から善枝さんが発見されたのがいつであったか覚えておられますか」
証人=「ええ、三十八年五月四日でしたね」
福地弁護人=「何時頃であったか覚えてますか」
証人=「もう忘れましたが」
福地弁護人=「午前中であったか、午後であったか」
証人=「昼間ですね、夕方ではなかったです」
福地弁護人=「その死体が埋められてあった農道ですけれども、そこは今でもあなたの所有地ですか」
証人=「今は売渡を致しました」
福地弁護人=「いつ頃売りました」
証人=「そうですね、事件があってから三、四年目でしょうか」
福地弁護人=「何という人に売ったんですか」
証人=「大和建材といいまして、水村和孝という人です」
福地弁護人=「当時、死体が埋められてあった農道と畑の境には茶の木が植えてありましたね」
証人=「ええ、かなり大きかった茶の木です」
福地弁護人=「現在でも残っておりますか」
証人=「現在はないんです」
福地弁護人=「その茶の木はいつ頃まで植えてあったんですか」
証人=「それはちょっと・・・・・・、売渡した時に取ったんですから事件後三、四年に取ったということでしょうか」
福地弁護人=「その茶の木もあなたのものだったわけですね」
証人=「ええ、そうです」
福地弁護人=「農道と畑の境目にずっと並べて植えてあったわけですか」
証人=「ええ」
福地弁護人=「上の畑との間に」
証人=「ええ。上の畑と下の畑があって、上から水なり泥なりが流れますから、その水よけ泥よけに、お茶を蒔いたのです」
福地弁護人=「死体が埋められていた辺も同じような目的で茶の木が植えてあったんですか」
証人=「そういうことです。茶の木というのはどの農家の人もこれ、どういう理由か風よけ等ですか、はじに蒔くものですね」
福地弁護人=「その茶の木はあなたが植えた茶の木ですね」
証人=「蒔いたんですねぇ、種」
福地弁護人=「いつ頃蒔いたかは」
証人=「さて、あんまり古いので分かりませんが」
福地弁護人=「事件当時はもう蒔いてから何年か経っておりましたか」
証人=「ええ、高さが四尺から四尺五寸はありましたから、相当古いものでしたねぇ」
福地弁護人=「その茶の木は手入れなど時々はやるんですか」
証人=「春、お茶を摘んで、夏お茶を摘みますから、回りを綺麗に草を取るんですから」
福地弁護人=「春摘んで、夏も」
証人=「ええ両方です」
福地弁護人=「春というといつ頃」
証人=「五月中旬から下旬です」
福地弁護人=「夏はいつ頃摘みますか」
証人=「夏は七月上旬です」
福地弁護人=「手入れというと、どういうことをするんですか」
証人=「草なんか生えますから、畑と同じように下のほうの草を取ります」
福地弁護人=「私は素人で分からないんですが、茶の木も剪定などをするんですか」
証人=「今は鋏でお茶を刈りますから春、摘む前にお彼岸頃に頭をちょん切って平らにするんです。手で摘むならばそういう必要はないんですが」
福地弁護人=「今はそうですか。鋏で刈る」
証人=「そうです」
福地弁護人=「当時はどうでした」
証人=「事件当時も鋏刈りでしたね。春、刈ったと思いましたね」
(続く)
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○事件当時の農道付近。右側に見えるのが証言に出てくる茶の木と思われる。