【狭山事件公判調書第二審3723丁〜】
「鑑定書補遺」 ①
「文字の異同識別」の項において、説明しきれなかった項について茲(ここ)に補遺を附する。
(一)鑑定資料(四)についての補足
この鑑定書に取り上げられた資料には、充分な資料を網羅していない。例えば上申書(昭和三十八年五月(注:1)日付)を使用していないことに留意されたい。この書を見るといかにも教育程度が想像され、本人の学力を証するものがある。「間」を(注:2)に、
(注:2)
「傘」を(注:3)に、
(注:3)
「辶」の字形、筆使いや、特に「時」の結構でよく分かる「時」字を正しく書けず、その曖昧な形によって寺とあるべきを青にしている。それも一ヶ所ではない、三ヶ所にもわたっている。これは何かを見て書いたとしか思えない。言い換えれば何かによってそれを見ながら書いた為に、元々自分の書き様を忘れて充分な形に書けなかったのではないか。「日」字の第二画の角などを丁寧に書いている。また上申書の仮名文字は一字を書くのに一様に力を入れて書いてあり、鑑定資料(一)にみえる、仮名文字のように終筆に勢をあらわしてはいない。終筆にはきちんと書きとめてある。つまり筆勢がみられないし、はね切っては書いてはいないのである。このことは漢字の場合にも当てはめることが出来る。また一字を比較するのに、その一部分のみを取って、似通うているからと言っても必ずしも同一筆致であるとは言えない。一部分の類似または酷似したものは、よく選び出せるものであるが、一字全体を比べると却って似而非なものを知る場合がある。特に硬筆の場合にはこの注意は同到に払わねばならない。
従って高村氏の鑑定には最も重要な資料との比定が無視されていることを遺憾に思う。
(続く)
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(注:1 )は日付が不鮮明であり、原文の写真からそれを推察して頂きたい。
・・・上から二つ目が指摘対象であるが、うむ、あまり目にしない字ではあるな。