【公判調書3666丁〜】
「第六十六回公判調書(供述)」(昭和四十七年)
証人=石川一雄被告人
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山梨検事=「あなたは捜査段階、それから一審でも、いわゆる女の関係は、なかったんだと言っておったんだが、控訴審で、いや女の関係はあったんだということを言いましたね」
証人=「はい」
山梨検事=「相手は誰ですか」
証人=「検察官もこれは調べてきて、あらかじめ分かっていると思いますけど、五人なんですね。これは自分が逮捕された時、もう警察官が分かっていて、誰々と名前挙げられて、一応恥ずかしかったから、関係しないと自分としては言ってきたんです。一人はどうしても名前挙げたくないけど、四人はいいですね。名前やっぱり挙げなくちゃうまくないですか。どうしても挙げろと言えば挙げないこともないですけど」
山梨検事=「控訴審になって提出されたあんたの調書があるんだが、昭和三十八年六月九日付の調書(当審記録第十六冊の二七四七丁以下)に、私の彼女関係について、ということで、ぜんけんという名前、それから海老沢○子、それから西武バスに勤めていた十九才の女、それから海老沢○江、これは何かあんたと結婚の約束をしたということにもなっている、四人じゃないんですか」
証人=「いや、警察のほうで逮捕された時に一番最初出たのは、自分ちの隣の、ちょっと言いづらいんですけど、水村○子というのと約一年間付き合っていたんですね、そういうのを近所で知っていたらしく、まぁいろんな所へ遊びに行ったから、そういう関係で第一に挙げられたですね。それで、それ入れると五人ですね、バスガールしていた人、あれはちょっと自分の同級生ですから、ちょっと名前挙げたくないですね。今、二児の母ですから、その人の名前はちょっと言えないですね」
山梨検事=「警察官が調べて来たんじゃなくて、あんたが言って警察官が調べに行って、名前が分かったんじゃないんですか」
証人=「それだったら自分が経験ないとそんなこと言うわけないでしょう、自分はそういう強姦とか、そういった経験はないと言うわけないでしょう。自分からそういう風に言ったんだから、警察で逮捕された時に」
山梨検事=「いや、あんたとしては警察では女と関係したことはないと言っていたんでしょう」
証人=「ええ、そうです。だから自分から言うんだったらそれを言う必要はなかったんじゃないかと思います」
山梨検事=「ただ関係していないまでも、何も女と知り合ったら必ず関係するものでもないんだから、あるいは一緒に映画を見に行ったりすることもあるだろうから、私が聞いているのは要するに関係したことある女という意味ですよ」
証人=「ええ、そうです。だいたいはしました。いま挙げた人は。だから自分としては一番関係したのはそのバスガールなんですよね。だけどそのバスガールというのは男が同級生なんですよね。だからちょっとその名前は、今二児の母ですから、ちょっと挙げられないですね」
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青木弁護人=「裁判長、被告が性行為の経験があるかどうかということを検察官は尋問されるが、被告がそれを認めて、五人の人と関係があったと言うんですから、女の名前まで特定したりなんかして、そこまで尋問する必要はないんじゃないんですか」
山梨検事=「別に聞いているわけじゃないんですよ。五人の女とも本当に関係したの」
証人=「ええ、したです。水村○子というのは警察で一番よく知っていて、それでも自分のうちの隣だからがんばっちゃってね、知らないということを」
山梨検事=「それならあなたとしては警察段階では女と関係したことはないと言っているでしょう」
証人=「そうです。だから最初に申し上げたように、恥ずかしいから」
山梨検事=「それでしかし女の名前は挙げたわけだな、あんたとしては。警察で挙げて」
証人=「ええ。もちろん関係したとは言わないけど、付き合ったと言いました。関係していないと言いました。はっきり」
山梨検事=「警察はその今の女の全部にお前さんと関係したことを言ったですか」
証人=「ええ、そうです」
山梨検事=「そうじゃなくてあんたと婚約した海老沢○江だけとじゃないかということを言われたんじゃないかな」
証人=「いや、そうじゃないですね、全部もちろんその東鳩に行ってる時の関係ですから、それは警察官のほうで全部調べて来たんじゃないんですか」
山梨検事=「ここに今残っている調書を見ると、あんたとは関係したとは書いてないよ。今の海老沢○江を除く女は」
証人=「そうですか、ただし、そういう風に四、五人挙げられたことは事実なんですね。その中で先ほど述べた水村○子、これは石田豚屋にいる時に、そういうことを石田義男に漏らした関係で、石田義男なんかに聞いて来て警察でそういう風に言ったと思います。それまでは分からなかった、付き合っているということは近所で分かっていました。だからもし自分の今述べていることを疑問に思うなら石田義男に聞いてもらえばよく分かります、その当時警察に話したか話さないか。警察でも石田義男から聞いて来たということをはっきり言ったですからね」
山梨検事=「その訪ねてきた先が海老沢○江ではないか、ということです」
証人=「いや、だから海老沢○江も含めて五人くらいだと思います」
山梨検事=「あんたとしては恥ずかしいから、言わなかったというの」
証人=「はい、そうです」
山梨検事=「恥ずかしいんならそれで通せばいいんだが、なぜ控訴審で言ったの」
証人=「弁護士さんが言え言えと言ったから、一応恥ずかしいながらも、うちの姉御が後ろに来てたけど、自分でも言ったわけです」
山梨検事=「調べの段階では相当お前は女の関係があるだろうと警察官は尋ねた」
証人=「そんなに尋ねなかったですね。狭山警察署で調べる段階でそういうことを少し言われたわけですね」
(続く)
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○裁判ともなると、証人として法廷に出廷した者に対して、プライバシーに深く立ち入った尋問がなされるようである。読んでいるこちらが恥ずかくなるようなその内容に、やはりこういった事象に関わらぬよう注意深く生きていかねばとの思いを強める。
ところが老生が死後、その行き先(今ここで、輪廻転生やら六道輪廻など小難しい話には触れないが、電車内で年寄りに席を譲るなど、生前の善は尽くしている)として熱望している猫の世界では"プライバシー"や"恥ずかしい"という概念は存在せず、むしろそれは隠すという思考が間違っていることを彼等は示している。
老生が必死に盗撮した写真がそれを証明している。
ラブラブな、ご近所の若奥様が見たら卒倒するであろうこの刺激的な写真を見れば、私の言わんとすることが分かってもらえよう。
結論として、やはり彼等の世界は文句の付けようがない、ストレスの全くない社会が完成されていると結論付けて良いだろう。