アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1158

『老生による原文(公判調書第二審)引用作業は常に泥酔状態で行なわれるが、中身は概ね正確である』

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【公判調書3592丁〜】(昭和四十七年)

              「上田政雄鑑定書に対する意見」(検事)

第四、胃内容物の消化時間について

    本件死体の死後経過時間については、五十嵐鑑定書の結論と符号するが、胃の内容物の消化時間については本鑑定人は二時間、五十嵐鑑定人は最短三時間とする。被害者が正午に学校で調理した食事をとって放課時間まで学校にいたという客観事実に徴(ちょう)し、本鑑定の判断が措信(そしん)出来ないこと明らかであるが、反面、それだけ胃の内容物の消化時間は食べた物の崩れ方から判断するので、人により見解が分かれ千差万別変化の多いことも本鑑定人が指摘するように(五十九丁)事実である。

    なおカレーの黄色色調が胃内容に残っているべきであるとの点については、ただ五十嵐鑑定書には色調についての記載がないだけのことで現在では黄色色調があったか否か分からない。

第五、姦淫の時期について

    本鑑定書は「生前に姦淫が行なわれたこと、姦淫時に損傷を受けたことは認めるが、死直前に暴力的姦淫を受けたことは一概に言いきれるものではない」としているが、之を全く否定しておらず、死姦を含め死亡直前の暴力的姦淫なりとする五十嵐鑑定の判断乃至被告人供述と矛盾するものではないが、死亡直前か否かの点について本鑑定は、「死亡直前に姦淫されているほうが、膣内から証明される精液量が多いのは当然であり、本件では染色してみたところ完全な精虫が多く見出されたというだけであり、これを証拠に姦淫直後に殺されたということは出来ない」と述べているが、之は反面、姦淫されてのち被害者が自力で歩行するなど活動することが出来た場合には暗に精液の量が少ないことは認めているわけで、従って本鑑定人も結局は死姦を含め死亡直前の姦淫のほうが蓋然性の多いことを肯定しているのにほかならず、むしろ之を否定するほうが極めて困難であると思料される。

第六、中田友也証人について

    立証事項中死斑状況の問題については前記第一記載の点に、後頭部裂創の問題については前記第二記載に明らかの如くその必要はないものと思料する。

                                                                                      以上

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『事実取調請求を却下する決定に対する弁護人の意見』

第一、異議申立ての対象

    本異議申立ての対象は、昭和四十七年八月七日付決定のうち、

(一)腕時計に関する鑑定

(二)証人犬竹幸の尋問

(三)証人小島朝政の尋問

(四)証人石川六造の尋問

(五)証人増田実太郎の尋問

(六)証人内田春吉の尋問

    の請求を却下する部分である。

第二、異議申立ての理由

    前項の各請求を却下する決定は、証拠の採否に関する裁量権の濫用に基づくものであり、その結果該決定は、違法を構成するものである。即ち、

(一)腕時計に関する鑑定請求の却下について

       腕時計は、鞄および万年筆と共に、被告人の自白によって発見されたものとされている証拠物である。而(しか)して、自白に至る経過については非常に問題があるのである。

     本鑑定請求は、腕時計が、検察官主張の状況下に、長期間風雨にさらされていたものであるかどうかを明らかにするためのものであり、腕時計を巡る捜査経過を吟味する上で不可欠の証拠であった。

(二)証人犬竹幸の尋問請求の却下について

       犬竹証人は、一旦採用決定がなされたのを取消した上、却下されたものである。出会い地点とされる地点付近で、事件発生当日農作業をしていた横田権太郎および横山ハルはすでに証人として尋問を受け、いずれも当日、被告人が被害者を連行して行く状況を目撃したことはないと述べている。犬竹幸は、右両証人と異なる角度から見ていた者であって、犬竹の供述は、被告人の自白を裏付けるものであるか、または、崩すものであるか、いずれにしても重要な意味を持つべきものである。それゆえにこそ裁判所は犬竹証人を採用されたものであると思料する。然るに、その採用決定を取消して、尋問請求を却下したことは、証拠の採否についての裁量を誤ったものである。

     同証人が、健康上の理由により出頭不能である旨の上申が存するとのことであるが、事件発生当時同証人の精神状態に異常はなかった。裁判所は先ず同証人を公判廷に召喚してその証言能力の有無を吟味すべきであった。

(事件当日、石川被告が被害者を連行したとされる場所付近で農作業をしていた横田権太郎証人。証人は"四本杉へ行く人があれば、ここからなら足首まで見える"と語った)

(この横山ハル証人も同日、同時間帯に現場近くで農作業をしていた)

(三)証人小島朝政・同石川六造の尋問請求の却下について

     小島朝政は、被告人宅の捜索の責任者であったにもかかわらず、従来、家宅捜索の真実を匿(かく)しているものと思われる。特に、万年筆を巡る捜査の経過について、同人が十分に真実を述べたものとは考えられない。それに反し、石川六造の証言は、後に万年筆が発見されたとされる場所の捜索について、真実を語っているものである。

     右、小島・石川両証人の従来の供述は明白に矛盾しているので、両名を現場において尋問し、あるいは対質させることによって家宅捜索における疑惑を解消させるべきであった。右両証人が、すでに尋問されたことをもって今回の請求を却下されたのであれば証拠の採否に関する裁量を誤った違法があると言わざるを得ない。

(四)証人内田春吉・同増田実太郎の尋問請求の却下について

     右両名は、腕時計が発見されたとされる場所付近の居住者である。

     腕時計の捜索についてはすでに何人かの捜査官の取調べがなされたが、いずれの捜査官も、後に腕時計が発見されたという地点を避けて、そこだけは見なかったという意味の供述をしている。そこで弁護側としては、民間人の目に映った腕時計の捜索状況を明らかにしたかったのである。

     裁判所も右両証人を取調べて真実を明らかにすべきであった。

     以上各証拠は、本件に関する未解明の疑惑を解明するため弁護側がその取調べを請求したものであって、それを却下したことは、前述の通り、証拠の採否に関し裁量を誤ったものと考えられるので、ここに異議を申立てるものである。

                                                                                      以上 

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(続く)