アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1155

【公判調書3571丁〜】(昭和四十七年八月)

証人=鈴木 将(診療所経営)

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裁判長=「さっき、その死ぬ時より一年前くらいから何か変なことばかり言ってて安定剤を与えたと言われましたね」

証人=「ええ」

裁判長=「安定剤というのはバランスみたいなものですか」

証人=「そうです。あまり強いものはあげてなかったと思います。バランスですね」

裁判長=「何か変なことばかり言っていたというのはどういうことですか」

証人=「・・・・・・・・・デプレッションではなかったかしら」

裁判長=「気がふさいでね」

証人=「ええ」

裁判長=「家庭のことなんか、言っていたですか」

証人=「こういうことは面白いから覚えてるものだけど、内容覚えてないから大したことじゃないんじゃないですか」

裁判長=「取り留めもないことを言っていたのか」

証人=「頭が痛いとか何とかいうことじゃなかったかしら」

裁判長=「身体的な不調ですか」

証人=「そうですね」

裁判長=「この事件が昭和三十八年五月一日に起こって、これは妹のことですからね、非常にまあいろいろ苦労しただろうと思うんですが、その一年二か月くらい後の七月に亡くなったと、こういうことですからね、これはまあとにかくいろいろの苦労はあったと思いますね、今から考えてみると、そういう風な妹が殺されてどうとか、そういう風なことがあったとすればそういうデプレッションの状態に陥るという風なことはあり得ると思いますか」

証人=「当然それはあり得るでしょうね。だけど性分というものがあるでしょう、平気なやつは平気でしょう」

裁判長=「女の身として自分の妹が」

証人=「それは十分考えられますね」

裁判長=「特にその人の生来的の要因か何かあってそういう風なことが出てきたんだという風なことは疑われなかったんですか」

証人=「そうですねぇ・・・・・・そういうことを考えても見なかったですね、別に。これは何かデプレッションである、これは細かくは追及しないものじゃないですかね」

裁判長=「そうとも言えないと思うんですがね、これは今のうちに何とか上手くやってやらないと、もっと重くなったら困ると」  

証人=「その方が治療中にもしもそういうことを起こしたらいけないとか」

裁判長=「そういうことを将来心配しなくちゃならないということまで考えなくてもいいというような状態ですか」

証人=「精神病というのは非常に難しくて、いい状態だと、ぱっといく時があるんです。だから良い時も悪い時もそうは気を許せないわけですけどね、だけど私の所へそんなに来てなかったですよ。たまに来るだけだから責任感というのは乏しくなるね」

裁判長=「何回か来てたんですか」

証人=「三、四回じゃないですか。だから他のお医者さんに行ってるかなと、それほど気にもならないですね。ずっと来られていればこれはいけないと気になりますよ、だけど年に一回か三回くらい来られては記憶ないですね」

裁判長=「さっきちょっと仰ったが、あなたのほうのカルテというものは五年で廃棄するんですか」

証人=「ええ、そうです」

裁判長=「だけどそれは破って捨てちゃうというものじゃなく、どこかにいってるんですか」

証人=「いや、家を作り直して、全部焼いてしまいました」

裁判長=「あなたの所で処分した」

証人=「ええ」

                                            *

宮沢弁護人=「奥富玄二さんが亡くなったのは井戸から引き上げておられたということですね」

証人=「はい」

宮沢弁護人=「井戸の深さはどのくらいあったんですか」

証人=「十メーター内外じゃないんですか」

宮沢弁護人=「それは自分で飛び込んだか、投げ込まれたか、その辺のところはどうですか」

証人=「それは見たわけじゃないけれども、自分で行って飛び込んだというわね」

宮沢弁護人=「その辺のところ何か噂はないですか」

証人=「ないですね」

宮沢弁護人=「先生の耳には入らなかったですか」

証人=「入らなかったですね」

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昭和四十七年八月二十四日   東京高等裁判所第四刑事部

                                                      裁判所速記官  重信義子

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狭山事件公判調書第二審3579丁には「電話聴取書」なるものが載っている。ある女性に証人として法廷へ出頭して欲しいとの裁判所からの電話連絡に対する返答のようだが、答えているのは女性の配偶者だ。ちょっと読んでみよう。

「私の妻○○子は、子供を病院へ連れて行って、只今不在です。

  ○○子を来る八月二十九日の午前または午後証人として出頭させて欲しいとのことですが、子供が病気ですし、その他の事情もあるので出頭できません。

  裁判所が必要と認めて決定し、召喚状が送達された場合は、国民の義務として応じなければならないとのことですが、○○子は石川という人の事件に関係ないのですから出頭する必要は無いと思います。

  ○○子が、犯罪事実関係ではなく、高校の同級生であった中田善枝という人の所持品等についてお尋ねを受ける予定であることは以前からお聞きして存じております。

  知らない事や忘れたことについてはそのように答えればいいというお話ですが、兎に角(とにかく)行っても無駄ですよ、それに忙しいんだしね。行けません」以上

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・・・・・・最後の行へ来て、猛烈に出頭拒絶を示す文体となっている。せっかく丁寧で穏やかであった文章が台無しだ。・・・ただそれだけである。