アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1149

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

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【公判調書3558丁〜】

                                   証人尋問調書

証人=小川とら

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宇津弁護人=「おばあちゃん、ずっと前に私と、それからこちらの人(石田弁護人)と、おばあちゃんのうちに訪ねていったでしょう」

証人=「ああ、ああ」

宇津弁護人=「覚えてる?」

証人=「ああ、そうですか、どうも」

宇津弁護人=「見覚えあるでしょう」

証人=「うん」

宇津弁護人=「その時にね、そのお客さんが見えた日はすごく雷が鳴って、土砂降りで、そういうすぐあとだったということを聞いたんだけど、どうかしら」

証人=「何だか年取ってるから、長いこと経ってるから・・・・・・ああ、あんたでしたか、ついでに時計のことについては私はおじさんに関係ないから幾度ご苦労いただいてもこれまでだと、そう言いましたね」

宇津弁護人=「ええ、いろいろ話してもらったんで、で、もうおじいちゃんは死んじゃったし、自分は誰に気兼ねもなく話せるんだというようなことも仰ったでしょう」

証人=「・・・・・・・・・」

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山梨検事=「むしろ何度足を運んでもらっても時計については何も分かりませんというのが今の本人の言い方ですよ」

宇津弁護人=「そういう意味じゃないんです。時計を発見した時、いたかいないかは私も分かっているんです。おばあちゃんも喋っていますね。だからその時出た話題全体を捉えてその時喋った中で、もうこれだけで伝々と言ったことが事実なんです。きょう法廷で述べたことと、もうこれだけだと後で言ったということとは全然合わないわけですよ」

山梨検事=「いや、合ってますよ」

裁判長=「ちょっと待って下さい、もう一回問い直して下さい」

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宇津弁護人=「それでね、前にお尋ねした時に、松五郎さんのことも話していただきましたね、まあ、松五郎が東京に出てて、それでいつ頃帰って来たとか」

証人=「うん」

宇津弁護人=「それからあなたは直接見なかったけどその松五郎さんは時計を拾ったという話だったとかね」

証人=「うん」

宇津弁護人=「それから松五郎さんが拾った時計を峰の交番に届けたという話もしましたね、私どもに」

証人=「ああ、そいつは私おじさんに聞いたから、おれはそんな話じゃ家で待っているから帰ると言ってね、帰ったんです」

宇津弁護人=「それからさっきのお客さんが訪ねて来たんだという話もその時聞きましたね」

証人=「そうだと思うけれども」

宇津弁護人=「で、いろいろ話した後で、もう自分は知ってることはもうこれだけだからということだったんじゃないでしょうか」

証人=「ええ、幾度ご苦労いただいても時計のことについてはおじさんにわしは関係ないから、ばかにくどいことは私は分からないから、まあ幾度ご苦労いただいてもこれまでだからと私は断りましたね、あの時」

宇津弁護人=「それはいろいろ話していただいて、で、これ以上は自分は知らないということだったんじゃないの」

証人=「ああ」

宇津弁護人=「そうですか」

証人=「はい、いくらご苦労いただいてもあなたでしたか、まあ時計の話もこれまでで、くどいことはほとんど行ききりでないからね、ほかのことは絶対分かりませんからとお断りしたと思うけど」

宇津弁護人=「で、あなたが私に、自分は嘘も隠しもしないと、もう松五郎さんもいないし、自分ももう、年とって、別にどうこうということはないんだというようなことを話していただきながら、いろいろ話してもらったと思うけど」

証人=「うん、そう、それでもうご苦労いただいてもこれだけで、私は時計については関係がないからと、私はそう言ったつもりです」

宇津弁護人=「時計を拾ったあとで松五郎さんから聞きましたね」

証人=「うん」

宇津弁護人=「前に話を聞いた時には、まあ時々身の回りの世話に行ってあげてたけど、覚えてるのは雷がえらく鳴って、土砂降りで、そういうことがあった後でその北海道のというような人が来て、その後で時計を拾ったということがあって、その後はそのお客さんも何もなかったというようなご説明じゃなかったでしょうか」

証人=「うん」

宇津弁護人=「それでいいわけですね」

証人=「うん」

宇津弁護人=「それからね、前に伺った時には、そのお客さんというのは、まあお客さんという言葉は使わなかったけれどもね、見えてた人は警察の人だという説明はなさいませんでしたでしょうか」

証人=「それはおじさんが、あれでも警察の人だとよと言いましたから、そうかよと言ったきりでね」

宇津弁護人=「おばあちゃんね、私と、それからこの人(石田弁護人)が訪ねて行ったのは何年前か覚えてますか」

証人=「いや・・・・・・」

宇津弁護人=「二年前くらいじゃない?おととしじゃないの?」

証人=「おととし辺りかね、何だか、もう本当にご苦労な・・・・・・」

宇津弁護人=「おととしの五月頃と言ったら、どうかしら」

証人=「もうおととしだろうね、何せ月日までも覚えてません」

宇津弁護人=「おととしのような気がするということね」

証人=「そうです」

                                          (休憩)

[なお、速記録中(休憩)と表示のとき、裁判長は休憩を宣し、裁判官退席の後、宇津弁護人は裁判所書記官、検事および出頭した全弁護人、立会いのうえ、後に弁護人より証拠として取調請求予定の録音テープ一巻(昭和四十五年五月二十三日に弁護人:宇津泰親および同:石田享が証人宅を訪れ、同証人との対話を録音したもの)を証人に再生して聞かせた]

宇津弁護人=「今機械で声を聞いたと思いますが、文句の中身は分からなくてもああ、自分の声だなということは分かりましたか」

証人=「自分のことじゃないのかなと思いましたけど」

宇津弁護人=「声は」

証人=「私の声だったろうなと思うくらいで、本気になって聞いたけど何だか」

宇津弁護人=「文句の中身がよく分からない」

証人=「分からない」

宇津弁護人=「自分の声じゃないかなということは分かるわけね」

証人=「自分のことかなと思ってね、本気になって聞いたけど」

宇津弁護人=「それから前に私とこちらの石田弁護士がお会いした時には、耳はたいへん達者だったですね」

証人=「まだ聞こえたですね。おととしの八月頃からだんだん、初めのうちはだから聞こえても聞こえないふりをしているなんて、うちでさんざん言われました。だんだん、だんだん遠くなるんです。だからやっぱりどこへも出たくもなし」

宇津弁護人=「私どもがお訪ねした時には、かなり離れたところでも話が出来ましたね」

証人=「あの頃はもっとよく何かが分かったよ」

宇津弁護人=「それでお訪ねした時には私たちは土間の板の所で私どもが腰掛けて、おばあちゃんはすぐ上に続く座敷の敷居の所で話されたんじゃなかったかね、そうですね」

証人=「はい」

宇津弁護人=「だから一間くらい離れて話してたんじゃなかったかな」

証人=「そうね」

宇津弁護人=「それから間もなく遠くなったわけ」

証人=「そう、何でもおととしの夏辺りからおかしいな、それで八月時分恐ろしく頭が半分締めつけられたのね、おかしいなと思ったけど、でも、医者へも行かないですけど、だんだん、だんだん遠くなってね、本当に今は自分でも年とって不便だけど」

宇津弁護人=「それから、おばあちゃんの所には鶏を飼っていましたか、私どもが行った時」

証人=「あの頃も幾羽かいたでしょう」

宇津弁護人=「犬は」

証人=「犬は始終一匹ずついますよ、ちゃんと鑑札して」

宇津弁護人=「二年前の犬と今の犬は同じ犬ですか」

証人=「・・・・・・今の犬はもう三年目くらいになったかね」

宇津弁護人=「犬の名前はエスと言うんだね」

証人=「ええ、エス

宇津弁護人=「テープで最初におばあちゃんが犬のことを怒っていたけど、あれはエスという犬を怒っていたんだね」

証人=「ええ、エスという」

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昭和四十七年八月二十三日   東京高等裁判所第四刑事部

                                                      裁判所速記官  重信義子